自然界の高度なホモキラリティー発現にも関連し,アキラルな前駆体から光学的に純粋な化合物を創製する手法の開発は,多くの研究領域で注力されている。円偏光や磁場による不斉制御もその要因の1つと考えられている一方で,アキラルな物質が結晶を形成する際に不斉が発現する現象も原始地球におけるホモキラリティーの起源(延いては生命の起源)として有力視されている。申請者は,2000年には結晶のキラリティーを低温溶液中で記憶して不斉反応に用いる新しい不斉合成法を開発した。しかし,これらの反応はいずれも大量合成には対応できず,さらに,生成する光学活性化合物のキラリティー(+か-,または右か左)を制御できなかった。一方,円偏光をラセミ体の混合物に照射して鏡像体の片方をわずかに過剰に分解または生成する研究もなされているが,いずれも2%ee未満の光学純度にすぎない。本研究では,有機化合物が結晶化する際にキラリティーが自然発現する特異な現象を大きく飛躍発展させた前例のない不斉制御法の開発を目的とした。具体的には,アキラルな化合物へのキラルレーザー光(キラル渦光や円偏光)照射と動的結晶化の協働による新しい不斉発現・不斉制御・不斉増幅法を開発した。この現象は,①アキラルな化合物の 反応により不斉中心を有する生成物が生じること,②キラル光によるキラルな結晶核形成,そして,③生成物のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が系内で協働することで達成できる絶対不斉合成・掌性制御法である。コングロメレート形成するイソインドリノンの結晶成長時にキラル光を照射した。円偏光では掌性を制御することはできなかったが,キラル渦光の照射により結晶核と成長する結晶の掌性を制御することに成功した。さらに,動的結晶化へと繋げることで,系全体のキラリティーを制御し,物理的キラリティーの化学分子キラリティーへの高度転写を達成した。
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