研究課題/領域番号 |
17K19117
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩澤 伸治 東京工業大学, 理学院, 教授 (40168563)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | カルベン錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属錯体を用いてアルケンから触媒的にカルベン活性種を発生させる手法の開発を目的に研究を行っている。これまで、1)アルケンの求電子的活性化を利用する方法、2)ヒドロメタル化-α水素脱離を利用する方法、3)C-H活性化によるアルケニル金属種の生成とそのβ位での求電子剤との反応による方法、の3つのアプローチについて検討を行ってきたが、 目的のカルベンが生成したと考えられる化合物は得られなかった。今年度も継続して上記検討を行ったが、目的の反応を実現することは現時点でできていない。 今年度、これとは異なる新たなアプローチについて検討を行っている際に、ピンサー型カルベン錯体を用いるアルケンの活性化反応に関し、興味深い結果を得ることができた。すなわち、中心部位にカルベン部位を持つPCP-ピンサー型イリジウム錯体の新たな合成を行い、これとアルケンとの反応を検討したところ、カルベン部位とアルケンとが反応し、炭素鎖の延長したアルケンの配位したイリジウム錯体が生成することを見いだした。また、この過程は可逆的であり、一酸化炭素雰囲気下とすることで、もとのアルケンとカルベン錯体が再生することを見いだした。この反応は、カルベン部位とアルケンとでメタセシス反応を起こしカルベン錯体を生成する代わりに、[2+2]付加環化を起こした後β水素脱離が進行し、最終的にアルケン配位錯体を与えたものと考えている。このような反応はこれまでほとんど例がなく、ピンサー型構造により堅固に固定化されたカルベン錯体に特有のものと考えられる。また、このPCP-ピンサー型カルベン錯体はアルキンとも反応し、メタラシクロブテンを安定な錯体として生じることもわかった。メタラシクロブテンを安定に与える例は少なく、興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も当初の計画に基づき、1)アルケンの求電子的活性化を利用する方法、2)ヒドロメタル化-α水素脱離を利用する方法、3)C-H活性化によるアルケニル金属種の生成とそのβ位での求電子剤との反応による方法、の3つのアプローチについてさまざまな検討を行ったが、現在のところ、カルベン種の生成を明確に示す結果は得られていない。しかし、今年度新たにPCP-ピンサー型カルベン錯体を用いて、新しい反応素過程を見いだすことに成功した。これは新しい展開をもたらすことが期待できる成果であり、これらを総合して順調に研究は進捗している考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の項で述べたように、PCP-ピンサー型カルベン錯体を用いることで新たな可能性を示す成果を得ることができた。今後はこのカルベン錯体を用いて、アルケンとの反応を様々検討し、新しい触媒反応の実現を目指す計画である。具体的にはまず、中間に生成すると考えられる、πアリル中間体を活用する反応や、アルケン錯体を活用する反応を化学量論反応として錯体レベルで広く検討し、新しい素過程を開拓する。その結果を踏まえ、アルケンの新しい変換反応として触媒反応へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルケンからのカルベン発生法の開発に関しさまざまなアプローチで検討を行っている際、ピンサー型カルベン錯体を用いる手法においてアルケンの変換反応に関して有望な結果が得られた。この手法に関し現在、適用範囲の拡大や反応機構の解明等を行っており、補助事業の目的を達成するためにさらなる検討実験を行う必要があり、研究期間の延長の必要が生じた。 研究費に関しては、基本的に試薬やガラス器具等の研究の推進に必要な物品費(消耗品費)として使用する計画である。
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