研究課題/領域番号 |
17K19119
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
波多野 学 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20362270)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 不斉触媒反応 / マクロサイクル / キラルキャビティー / アルキニル化反応 |
研究実績の概要 |
有機反応において、基質分子および反応剤分子の活性化を担う単一分子性触媒の開発は、効率的な物質生産を行う上で欠かすことができない。特に不斉触媒反応の開発においては、反応自体を円滑に促進するだけでなく、生成物の立体制御を行うための優れた触媒デザインが必要である。こうした観点から、キラルビナフトール(BINOL)はC2対称性を有するシンプルで安価な人工キラル分子であり、簡単に分子化学修飾を加えることができるため、様々な反応で優れた立体選択性を発現する触媒(不斉配位子)となることが実証されてきた。本研究では、従来の触媒設計の常識を覆し、ビナフトールの3,3’位の置換基をベルトのように結んだとき、単一分子性触媒としてどのような効果が得られるのかという、極めて単純な発想に基いて研究を推進している。驚くべきことに、ビナフトールの3,3’位の置換基を大員環として結んだ単一分子性触媒の開発はこれまでに例がない。より正確に言えば、“堅い”構造体である金属有機構造体(MOF)が結果的に3,3’位を結ぶ大員環が形成される例はあるが動的挙動に基づいた単一分子性触媒としての機能は発現しづらい。これらとは対照的に、本研究では単一分子性触媒としての“柔らかくしなやかな”大環状キラルビナフトール触媒を世界で初めて創製し、クローズドな構造に基づく新奇な触媒活性の発現、高次基質認識、特異な位置および立体選択性などを発現する触媒づくりと反応開発を行なった。H29年度は、(1)新規大環状キラルビナフトール触媒の創製と、(2)ケトンの不斉アルキニル化反応の開発を行なった。実際に様々な新規大環状キラルビナフトール触媒を用いて、ケトンの不斉アルキニル化反応の特性を掴んだ。その結果、最短5分で反応を完結させる驚異的な触媒と反応条件を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度当初に計画した2項目について、下記の通り、計画通りに実施できた。 (1)新規大環状キラルビナフトール触媒の創製: 大員環の合成は一般的に困難である。それに対して本研究では、3,3’位にアセチレンを導入したビナフトールに対する長鎖アルキルジアジドのクリック反応で確実に大員環を一挙に構築した。異なる長さ持つ大環状触媒をシステマティックに合成した。新規大環状キラルビナフトール触媒(C10からC30程度)の合成法を確立した。 (2)ケトンの不斉アルキニル化反応の開発: 合成した触媒を用いて、ケトンの不斉アルキニル化反応を開発している。本反応では、有機合成上構築が難しい光学活性第4級炭素を有する光学活性第3級プロパルギルアルコールが得られる。反応のアルキニル源には、リチウムアセチリドを用いた。リチウムアセチリドは系中で生じるリチウムビナフトラート塩触媒のリチウム源とした。ケトン基質の適用範囲の拡大を行ない、有用性の高い複素環や環状ケトンなどへと展開できた。従来型の触媒と適宜比較しながら、従来の触媒では適用できない基質群の反応開発を集中的に行なった。触媒量は1mol%までに低減できた。当該分野では世界最高の驚異的結果である。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ研究は予定通り遂行されている。今後は、(2)ケトンの不斉アルキニル化反応の開発、を引き続き検討するほか、(3)反応機構と触媒活性種の解明に着手する。具体的には、大環状ビナフトール触媒が従来型の非環状ビナフトール触媒と比べて圧倒的に高い触媒活性を発現する理由を検証する。大環状ベルト構造によるキャビティー内部への基質/反応剤の包接効果の有無や特異なメチレン側鎖長における構造活性相関を調べる。質量分析(ESI-MS)とエックス線構造解析から大環状構造のコンホメーションを明らかにする。旋光度とCDスペクトル解析で種々の大環状キラルビナフトール触媒のCotton効果などを観測し、特異なメチレン数におけるビナフチル環とトリアゾール環の二面角の触媒活性に与える効果を調べる。また、トリアゾール環の塩基部位が触媒活性の発現に関与しているかどうか、トリアゾールをベンゼン環などのダミー基に置き換えて検証する。反応を赤外分光法(in situ IR)でモニタリングして、反応速度論を比較検討する。
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