研究実績の概要 |
現在のペプチド創薬においては,ペプチド-ペプチド作用を阻害する分子を医薬として用いることに注目が集まっており,作用部位の構造に応じたアミノ酸残基の配置を行える分子骨格として1964年にEatonが合成を発表した正立法体炭化水素Cubaneにも着目した。効率の良い相互作用には三箇所での相互作用が「面」としての構造を決めるので三置換基導入可能な分子骨格が必要となる。Cubane上の三置換体としては,1,2,3-, 1,3,5-, そして1,2,4-型が考えられるが,sp3炭素の骨格であるにも関わらず,その高い対称性により立体異性体の数が最小に絞られる。特に1,2,4-置換型は,三つの置換基の中の二つが正立法体中心点から180°の角度で,残りの置換基が70.7°,109.7°で配置できる特異的な置換パターンであるのに加えて,光学異性体が存在しないので合成上の利点になる。Eatonらはシクロペンタノンから出発し,光[2+2]付加を鍵反応とし数ステップを経て1,4-ジメトキシカルボニルキュバンを得ており,これは容易に4-ヨードキュバンとなることを1964年に報告しているが,このヨウ素部分を金属種に変換し,各種親電子剤と反応できれば1,4-置換体が幅広く得られる。ここでnBuLi四等量を二塩化亜鉛に作用させて得られるジアニオン性亜鉛アート錯体を用いてこの変換を可能にしている。また,1,4-置換体に対し,N-ブロモアミド誘導体を可視光照射化に作用させモノブロモ化を試みている。この手法はサイト選択性を有するので各種1,2,4-置換型キュバンを自在に合成できるルートができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要にも記したように現時点では,既知化合物である4-ヨードキュバンカルボン酸アミドに対してそのC-I結合をメタル化することに成功している。具体的にはこれまでキュバン誘導体には用いてこられなかったジアニオン性亜鉛アート錯体を用いる手法である。二塩化亜鉛に対し4倍モル両のアルキルリチウムを加えるが,n-ブチルリチウムが一番良い結果を与えた。このn-ブチルリチウムで得られるジアニオン性アート錯体(n-Bu4ZnLi2)を用いると室温でも安定なメタル化されたキュバンが得られ,臭化アリル,臭化ベンジル,シアノトリメチルシラン,そしてベンズアルデヒド等の多彩な親電子剤と反応することができ,対応する付加化合物が得られた。さらに1,4-置換体に対して立体障害の大きなブロモアミド誘導体を用いてサイト選択的ハロゲン化が可能であることをしめした。現在1,2,4-位の三置換体の合成が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,三置換キュバンの光学活性体の合成を目指す。三置換キュバンにおいては,その高い対称性のため,1,2,3-もしくは1,3,5-位の三置換でなければならない。現在試みてるラジカル反応を軸にしたサイト選択的なハロゲン化を行う際,モノ置換キュバンから出発しても立体障害の一番少ない4位に置換反応が進行し,結果として1,2,4-位の三置換というアキラルキュバンしか生成できない。そのため配向性基をもちいた置換反応を行うことにより位置選択的C-H結合活性化を進行させ,1,2,3-もしくは1,3,5-位三置換キュバンの合成を試みる。具体的には遷移金属触媒とアミド誘導体の配向性を用いた手法であり,現時点ではベンゼン環においてメタ位,オルト位選択性を発現している系を用いて検討する。
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