研究課題/領域番号 |
17K19126
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
垣内 史敏 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70252591)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 鉄錯体触媒 / 炭素-水素結合切断 / 炭素-炭素結合生成 / 末端アルケン / アルケニルエーテル / エナミン / 逆Markovnikov配向 / 芳香族ケトン |
研究実績の概要 |
炭素-水素結合活性化を経る触媒的分子変換反応の中でも、ほとんど検討が行われていなかった低原子価鉄錯体を触媒に用いる高選択的な反応の開発について検討を行った。基質としてピバロフェノン類やベンゾフェノン類などの芳香族ケトンを用い、Fe(PMe3)4錯体触媒存在下でアルケンとのカップリング反応を行ったところ、カルボニル基のオルト位で炭素-水素結合が逆Markovnikov配向でアルケンへ付加したアルキル化体が高収率・高選択的に得られた。反応は、室温でも進行するが、70℃程度の加熱条件下で行った場合に、短時間でアルキル化がほぼ定量的に進行することを見出した。この反応に利用できるアルケンの種類は多彩であり、1-ヘキセン、スチレン類、ビニルシラン類に加えて、アルケニルエーテルやエナミンなども利用できることを明らかにした。反応は無溶媒条件下でも効率的に進行することから、化学廃棄物の排出を抑制できるなど、これまで多く開発されてきたC-H結合の官能基化反応の中でも、突出してユビキタス金属利用・原子効率・物質損失低減に優れた反応系である。 反応機構に関する検討を、重水素標識したピバロフェノン-d5を用いて行ったところ、芳香ケトンのオルト位炭素-水素結合とアルケンのビニル水素の間でH/D交換が起こったことより、鉄触媒を用いる系でもルテニウム触媒系と同様、炭素-水素結合切断は律速でないことが分かった。興味あることに、アルケンへのH-Fe種の付加は逆Markovnikov配向でのみ進行していることが明らかとなった。この現象はルテニウム触媒系と全く異なるものである。鉄触媒を用いる反応系がもつ特徴の一つを見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄錯体として系中で発生させたものも含め、様々な錯体を用いて芳香族ケトンのオルト位炭素-水素結合のアルケンへの付加反応の検討を行った。当初FeCl2と様々なホスフィン共存下でMgにより鉄を0価へと還元することにより、系中で鉄ホスフィン錯体を発生させ、それを触媒に用いて反応を行った。ピバロフェノンを原料に用い、FeCl2/dmpe/Mgから発生させた触媒存在下でトリエチルビニルシランとのカップリング反応を検討した際、低収率ながらオルト位炭素-水素結合がアルケンンへ付加した生成物を与えることを見出した。触媒を鉄ホスフィン錯体に限定してさらなる検討を行うことにより、Fe(PMe3)4を触媒に用いた場合に、目的のアルキル化生成物がほぼ定量的に得られることを見出した。 予想外の研究成果であるはるが、これまでルテニウム触媒を用いた反応において進行しなかったアルケニルエーテルやエナミンを用いた場合でも、高収率・高選択的にアルキル化生成物が得られることが分かった。 これまでの検討で、用いるホスフィンの種類により芳香族ケトンの二量化反応が進行することも見出しており、鉄触媒を用いる炭素-水素結合の炭素-炭素結合への新規変換反応として利用できる可能性も見出している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に得られた知見を基にして、炭素-水素結合が鉄へ酸化的付加した中間体がもつ特性を積極的に利用することにより、鉄触媒を用いるからこそ達成できる新規触媒反応の開発を目指す。特に、アリール鉄種がもつ求核性の高さを利用することにより、ニトリルやケトンなどの極性官能基への付加反応の開発を目指した検討を行う。これまで、ルテニウム触媒やロジウム触媒などの貴金属触媒を用いて開発してきた触媒的炭素-炭素結合生成反応を、鉄触媒を用いた場合でも達成可能であるかについて検討を行う。 鉄触媒を用いた炭素-水素結合官能基化反応は、系中で発生させた触媒を用いる場合が多く、そのため常磁性の化合物が生成するなど、反応機構の解析に重要な核磁気共鳴(NMR)スペクトルを利用することが出来ない場合が多い。Fe(PMe3)4は反磁性の錯体であるため、反応中間体のNMRスペクトルを測定することができる可能性がある。そこで、反応機構の解明をNMRスペクトル等で行い、より高活性な触媒系を構築するための知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究目的としていた触媒反応のうち、炭素-水素結合のアルケンへの付加反応が予定よりも早く研究を終えることができ、別の研究課題に着手した。この研究課題は当初の推定よりも研究の遂行が困難であり、最も経費が掛かる反応基質の展開にまで至らなかった。そのため、当初予定していた予算のうちの一部を次年度に使用することにより研究を遂行することとした。
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