研究課題/領域番号 |
17K19128
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 克規 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (60455350)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 芳香族 / ビスマス / 第6周期元素 / ヘテロベンゼン / 共役系 |
研究実績の概要 |
本研究では新奇第6周期元素含有π共役系の合成とその物性を解明する。第6周期元素であるビスマスを導入した共役系を合成し、ビスマスの6p軌道と炭素2p軌道の共役に由来する特異な電子状態の発現やビスマスの重原子効果に基づく物性を解明することが目的である。その目的のため第6周期元素であるビスマスを含む共役系の合成を行い、実験的および理論的手法を用いてその物性の解析を行う計画である。平成29年度は単離可能なビスマベンゼンを鍵骨格とした共役系の拡張反応の開拓を行った。求電子置換反応は芳香族化合物において一般的な反応であり、この反応がビスマベンゼンにおいても適用できればビスマベンゼンの多様な官能基化が可能となる。そこでビスマベンゼンの求電子置換反応について主に研究を行った。その成果としてビスマベンゼンに対して炭素求電子剤が付加することを明らかにした。さらに塩基で処理することで芳香化が進行し、置換ビスマベンゼンが得られることがわかった。塩基による処理が必要であるが、ビスマベンゼンの炭素求電子剤を用いた官能基化が可能であることが本研究により示された。また他の求電子剤として臭素化剤であるN-ブロモスクシンイミドとの反応を検討したところ、ビスマベンゼンの酸化的二量化反応が起こることを見出した。この酸化的二量化生成物を還元することでビスマベンゼンが4-位で連結した二量体を得ることに成功した。この二量体の構造および物性について解析を行った結果、紫外可視分光測定から単量体に比べて二量体では吸収波長の顕著な長波長シフトが観測された。この結果から第6周期元素を含むベンゼンにおいても共役系を連結することでその共役系が拡張できることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で提案したビスマベンゼンの官能基化について研究を行い、その成果として求電子置換反応を見出した。この成果は第6周期元素を含む特異なベンゼンにおいても、芳香族骨格に特徴的な反応を利用できることを示している。これは学術的に価値があるばかりではなく、ビスマベンゼンを鍵骨格とした共役系を構築する上で基礎となる反応であり、この成果を応用することで第6周期元素であるビスマスを含む新奇なπ共役系を合成することが可能になる。今後の検討で得られるビスマベンゼンを鍵骨格としたπ共役系の構造および物性評価を行うことで本研究の目的である第6周期元素含有共役系の物性の解明を行うことができる。また一方でビスマベンゼンの酸化的な二量化反応を見出し、得られたビスマベンゼン二量体の物性について研究を行った。ここで得られた成果として、第6周期元素を含むベンゼンは連結することで、その共役系を拡張することが可能であることが明らかになった。またこの共役系の拡張により、炭素共役系でみられる吸収波長の長波長シフトが観測された。この成果からビスマベンゼンの官能基化により共役系を拡張できることが示された。以上の成果から第6周期元素であるビスマスを含む共役系の知見は順調に蓄積されている。従って上記の進捗状況とした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究成果としてビスマベンゼンの求電子置換反応が可能であることが明らかになった。この反応によりビスマベンゼン骨格の官能基が可能になる。本研究課題であるビスマスを含む共役系化合物群の合成とその物性解明、機能性の探索を行うため、本研究で開発したビスマベンゼンの官能基変換により多様な共役系の合成を研究する。得られる化合物群の物性を解明することで、本研究の目的である第6周期元素を含む共役系の特異な電子状態を解明し、ビスマスの重原子効果に由来する物性を持つ共役系の探索を行う。またビスマベンゼン二量体の合成に成功し、その共役系の拡張効果を明らかにした。この共役系の物性を詳細に研究することでビスマスを含む共役系の物性解明を進める計画である。当該年度に得られたこれらの研究成果を発展させることで、本研究の目的である第6周期元素を含む共役系の合成と物性解明を推進する方策である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は物性解明のための合成実験に取り組み、その結果としてビスマベンゼンの二量体の合成に成功した。この化合物の合成は予期していないものであったが本研究で目的とする第6周期元素ビスマスを含む共役系の物性を解明する上で極めて重要な化合物に位置付けられる。この合成実験に集中するため、物性解明のための装置導入を先送りしたことで次年度使用額が生じたものである。当初計画していた物性解明用の装置導入を次年度に行うことで。合成研究に集中することが可能となった。従って、効率的な合成研究の展開を行うことができ、当該年度は多様なビスマスを含む新奇共役系化合物の合成を進展させた。当該年度に得られた研究成果を次年度に繰り越した予算で発展させることで、本研究目的である第6周期元素を含む共役系の合成と物性解明に向けて、研究は順調に進展するものと考えられる。
|