研究課題/領域番号 |
17K19130
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
田原 一邦 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40432463)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / キラリティー / 自己組織化 / 走査プローブ顕微鏡(STM,AFM) / 有機化学 / ナノ材料 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
本研究では、表面での分子キラリティーの精密制御を実現し、従来の不斉識別とは異なる機構で動作するセンサの開発や光学分割法への応用、不斉反応場開発につながる基礎技術を開拓する。具体的には、(1)二次元分子集合体のキラリティー制御因子の解明、(2)修飾されたキラル空孔のゲスト認識能の評価と機能開拓、について検討している。 (1)では、我々が以前から研究しているデヒドロベンゾ[12]アヌレン(DBA)誘導体が固液界面で形成するハニカム構造のキラリティーに着目して研究を進めた。30年度は、三本のキラル側鎖と三本のアキラル側鎖が交互に置換したDBA誘導体の固液界面での自己集合単分子膜のキラリティーをSTMで調査した。その結果、キラル側鎖の数が六本から三本に減ってもキラリティーが誘起されることがわかった。一方で、誘起されたキラリティーが六本のキラルな側鎖を持つ分子とは逆転することを明らかにした。 アキラルなDBA誘導体のハニカム構造は、キラルなDBA誘導体によってキラリティーが誘起される。その際、Sergeant-Soliders機構とEnantioselective Adsorption機構の二つの誘起機構が競合する。三本のキラル側鎖と三本のアキラルな側鎖をもつDBAをキラル源としてアキラルなDBAが形成するネットワークのキラリティー誘起について調べた。その結果、今回のキラルなDBAは、Sergeant-Soliders機構でキラリティーを誘起することが分かった。一方で、Enantioselective Adsorption機構でキラリティー誘起は起こらなかった。これは今回のキラルなDBA誘導体では、不斉炭素原子の数が少ないため、安定に空孔に吸着されなかったためである。 (2)では、昨年度に引き続き立体的に嵩高い置換機で修飾されたキラル空孔を形成するDBA誘導体の合成を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(1)では、上述のように、三つのキラルな側鎖と三つのアキラルな側鎖を交互に持つDBA誘導体が形成する自己集合単分子膜のキラリティーと、この分子をキラル源としてアキラルなDBA誘導体のネットワークのキラリティー誘起について調べた。その結果、意外にもキラルな側鎖の数が誘起されるキラリティーに影響することが分かった。多孔性の単分子膜に発現する独特な現象を明らかにした。このことは学術論文として発表した。その他にも、DBA分子として3本の長鎖アルキル基と小さい置換基を交互にもつ分子の合成も行い、それらがハニカム構造を形成することを明らかにした。形成された構造の安定性について分子動力学計算によって見積もり、多形形成の要因を考察した。このトピックについては2件の学会発表を行った。 課題(2)では、新たに立体的に嵩高い置換機で修飾されたキラル空孔を形成するDBA誘導体の合成を行っている。 総合すると、(1)は計画通りに進展しているが、(2)は当初計画から若干遅れているが、最終化合物の合成に近づきつつあり次年度には進展する見込みである。総合すると、全体としておおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
課題(1)については、このまま当初計画通りに進める。キラルなDBA誘導体の他に、キラルなトリフェニレン誘導体において、自己集合単分子膜においてキラリティーが誘起されるかについて検討する。 課題(2)では、新たに立体的に嵩高い置換機で修飾されたキラル空孔を形成するDBA誘導体を合成する。加えて、アルキル鎖の末端に官能基が導入されたDBA誘導体も新たに合成する。これらの分子の合成が済み次第、この空孔を利用したキラル認識について当初計画通りに調べる。 また、ルーバン大学との共同研究も有効に活用して、分子設計やSTM観測などについて協力して本課題を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初予定通りの計画を進めていく。 具体的には、試薬やガラス器具、グラファイトやSTM探針などの消耗品を拡充するとともに、マグネチックスターラーやオイルバスなどの小額物品も補充し、研究を推進する。 また、本年度は成果報告の機会も増やす。学会発表も行うとともに、論文発表もする。それに伴う経費とする。
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