研究課題/領域番号 |
17K19134
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
桑田 直明 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (00396459)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 二次イオン質量分析 / リチウムイオン電池 / 正極 / 拡散係数 / 同位体 / 拡散機構 / スピネル / 混合導電体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、同位体イオン交換SIMS法を発展させて、定比組成からリチウム量を変化させた正極や負極材料の拡散係数を調べるための新しい分析方法を開発することである。2018年度の研究実績を要約すると以下のようになる。 昨年度までに開発した、ステップイオン交換法をLiMn2O4正極に適用し、Li組成を制御してLixMn2O4薄膜(x = 0.1 ~ 0.9)の拡散係数を測定した。LixMn2O4 (x = 0.5)の場合、電位を4.05 V (vs. Li/Li+)として組成を制御する。膜厚は300 nmである。ステップイオン交換法による実験結果は理論式とよく一致し、拡散支配による同位体交換を示した。ここから、Li0.5Mn2O4の拡散係数は、1.78×10-13 cm2/s と求められた。なお、表面交換速度が支配的な場合は、時間に対する同位体比の曲線が変化するが、今回のLixMn2O4 (x = 0.95 ~ 0.1)ではどの組成でも拡散支配であることが分かった。 SIMS測定から得られた、LixMn2O4の拡散係数の組成依存性は、7×10-14 ~ 8×10-13 cm2/sの範囲であった。x = 0.95 ~ 0.1の組成範囲では拡散係数の変化は1桁程度である。一方、x = 1付近では拡散係数が急激に減少し、今回の実験条件では同位体イオン交換が起こらなかった。以上の結果から、LixMn2O4ではLiを脱離することで拡散係数が上昇することが分かった。 LiMn2O4の結晶構造を考えると、Liは通常8aサイトを占有しており、8a→16c→8aと移動する。しかし、定比組成では8aサイトの占有率は100%であり、空きサイトが存在しない。そのため、移動先が限られて拡散係数が極めて小さい。充電によりLi+を脱離すると、8aサイトに空きが出来るので、拡散係数が上昇すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、おおむね順調に計画が進捗し、LixMn2O4の拡散係数測定を完了することができた。LixCoO2、LixMn2O4のどちらに対しても、10種類以上の組成に対して拡散係数を測定することができ、信頼性と再現性の確認は十分に行うことができた。さらに、定比組成に近い組成で拡散係数が大きく変化することから、拡散機構が空孔拡散機構によることを明らかにすることができた。来年度以降は、単結晶を含めた、幅広い試料に対してこの手法を応用していく予定である。 一方、LixMn2O4のx=1以上の組成についても同じ手法を試みたが、拡散係数を決定することは出来なかった。その原因として、二相共存状態であるため拡散機構が異なる、拡散係数そのものが小さい、さらに、表面交換速度が遅いという可能性が考えられる。これらの可能性の検討は今後の課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は研究の最終年度にあたるため、得られた研究成果をまとめて論文として発表する事を予定している。そのために、トレーサー法による直接測定と、電気化学法による間接測定を比較し、両者の違いを明らかにする。電気化学法によって得られる拡散係数は化学拡散係数である。これをトレーサー拡散係数と比較するためには、混合導電体の理論によると、熱力学因子が必要となる。そのため、各組成におけるリチウムの化学ポテンシャルを求め、熱力学因子(化学ポテンシャルの組成依存性)を実験的に求める。これらの情報から、混合伝導体におけるリチウムイオンのジャンプ過程と、相関因子を明らかにすることができる。以上の解析を踏まえて、論文を完成させる。また、本研究の手法をさらに広い対象に拡張する足掛かりとして、単結晶LiCoO2の拡散係数を明らかにする。このことにより、拡散の異方性を明らかにすること、粒界拡散とバルク拡散を区別する事、および表面交換とバルク拡散のどちらが支配的であるか等を明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、レーザーミラー等の消耗品を計上予定であったが、状態が良く、すぐに交換が必要ではなかったため計上しなかった。来年度は、パルスレーザー堆積装置の消耗品の交換を予定しており、予定よりも金額が大きくなるため、次年度の予算と合わせて計上する予定である。
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