研究実績の概要 |
シアノ架橋錯体は磁性材料、エレクトロクロミズム材料、触媒材料等への応用へ向けて多くの研究が行われてきた。我々はこれまでシアノ架橋錯体を用いて電子移動を利用した磁性制御の研究を行ってきた。これまでに電子移動を示す一次元磁性体、ナノクラスター磁性体の開発に成功している。本研究では上記の研究と異なり電子移動を利用した分極制御材料の開発を目指し検討を行った。特に鉄-コバルト-鉄からなる三核錯体(FeCoFe錯体)に着目して研究を行った。合成した物質は{[Fe(Tp)(CN)3]2(Co(dpa)2)}2H2O錯体(Tp = hydridotris(pyrazol-1-yl)borate, dpa = 2,2'-dipyridylamine)である。このシアノ基で架橋されたFeCoFe三核錯体は、V字型の構造を有し、水分子と水素結合を形成している。磁気特性の測定の結果、本物質は約200 Kで鉄-コバルト間電子移動を示し磁性、及び双極子モーメントが変化することが分かった。電子状態の変化は次のように表せる:FeIII-LS-CN-CoIII-LS- NC-FeII-LS <-> FeIII-LS-CN-CoII-HS-NC- FeIII-LS(HS = 高スピン、LS = 低スピン)。電子移動は協同的に起こり温度に対してヒステリシスを示した。ヒステリシス幅は約20 Kであった。また、この変化は光照射によっても誘起できることが分かった。すなわち、785 nmの波長の光と560 nmの光を交互に照射することにより、(FeIII-LS-CN-CoIII-LS- NC-FeII-LS)の電子状態と(FeIII-LS-CN-CoII-HS-NC- FeIII-LS)の状態間を可逆にスイッチし、磁性と双極子モーメントが変化することが分かった。光誘起準安定状態は約60 Kで緩和した。また、これまで報告されてきた鉄コバルト錯体と異なり、この物質はS = 1/2の基底状態で遅い磁気緩和現象を示すことが分かった。
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