研究課題/領域番号 |
17K19141
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 明 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90222231)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 共焦点レーザー分光顕微鏡 / 深紫外励起 / 紫外可視蛍光スペクトル / 偏光 / 水面 / クラスター / 多環芳香族 / 水面分子科学 |
研究実績の概要 |
深紫外励起・紫外可視蛍光スペクトルの偏光面選択的な観測が可能な共焦点レーザー分光顕微鏡を開発する。水面に吸着した極微量(分子密度~平方マイクロメータ当たり1分子、被覆率~10のマイナス6乗)の小分子量(<200)芳香族化合物を主要なターゲットとして、水面上でのクラスター形成が一般的であることを実験的に検証しつつ、クラスターの動的挙動(生成・消滅・運動)を解析する。装置開発の目標として、最も単純な芳香族化合物であるベンゼンとその誘導体を、水面に吸着した状態で単一分子検出レベルの感度で観測対象とできることを目指す。主な観測対象は多環芳香化合物とする。測定対象化学種の官能基にもよるが、これらの化学種が水面吸着した状態にあるとき、バルク中にある時とは異なって完全に水和しきっていない状態(半水和状態と呼ぶ)にあると考えられる。環境因子に依存したクラスターの正・逆成長や水面内移動等の動的挙動を解析することで、水面分子のダイナミクスを分子論的に理解するための、また、水面化学反応挙動を理解するための新規実験手法を確立する。また、実験データに基づき、水面分子科学とでもいうべき新研究分野の開拓を図る。 次3つを柱として研究を遂行し、成果は逐次発表する。(Ⅰ) 偏向面選択的深紫外励起・紫外可視蛍光観測共焦点レーザー顕微鏡開発。(Ⅱ) 希薄水面吸着分子系でのクラスターの正・逆成長や水面内移動挙動の解析。(Ⅲ) 各種芳香族化合物の水面クラスターの動的挙動の特徴付け。 研究初年度の本年度は(Ⅰ)に取り組み基本設計を終えた。特に、性能を決定する鍵となる光学素子である対物レンズとして、紫外光の透過率が高く、色収差が少ない物品を、また、分子配向の検討のための紫外対応のz-偏光子(4分割半波長板)を選定・特注・入手した。紫外光源系Tiサファイアレーザーを調整し、装置系の試作に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度取り組んだ(Ⅰ) 偏向面選択的深紫外励起・紫外可視蛍光観測共焦点レーザー顕微鏡開発は、本研究計画の根幹をなす項目で、研究の成否を決定づけるものである。この装置開発には2つのポイントがあり、(1) 対象とする化学種(ベンゼン等)に合わせた深紫外波長可変レーザー光源の利用。(2) 深紫外~紫外波長域で用いることが可能な共焦点光学系の試作、が重要となる。本研究で最も重要な観測対象であるベンゼンは、蛍光励起波長は220nm~280nmの範囲に、蛍光発光波長は260~350nmの範囲にあり、蛍光量子収率は7%、蛍光寿命は29nsである(シクロヘキサン中)。この波長帯に対応できる装置が必要であるため、申請者らが水面分子観測用に自作した現有の可視光励起型の共焦点レーザー蛍光顕微鏡をベースとして改良を加えた。 (1)に関しては、Ti:サファイアレーザーの第3高調波(240~313nm、現有)を用いて対応すべく、2年間程使用していなかった現有装置を復旧、調整することで、十二分の光出力が得られることを確認した。(2)に関しては、光学素子を紫外用に変更することが不可欠であった。最も重大な点は、対物レンズの性能(紫外光の透過率、開口数、色収差の程度)にあり、素子の選定、業者との相談の上での再設計、特注により、必ずしも理想的とは言い難いものの、以降の検討に十二分な性能を有する物品を入手している。また、共焦点顕微鏡下での分子配向の検討のために必要な紫外対応のz-偏光子を、選定・特注し、入手している。充分な性能検証を行えているわけでは無いが、これらより液面選択的な紫外可視蛍光スペクトルの観測、液面に垂直な遷移モーメントを持つ化学種と液面に平行な遷移モーメントを持つ化学種を分けて観測とが可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
開発した装置の性能検証を進めると共に、水面に散布したベンゼンないしはベンゼン誘導体水溶液表面の化学種を水面選択的に蛍光観測し、水面でのクラスター形成の一般性を検証する。観測手順は、まず蛍光発光スペクトル測定、スペクトルの偏光依存解析、蛍光時間相関解析、蛍光励起スペクトル測定の順に行う。この手順は次の理由による。ベンゼンについての水面への吸着平衡定数は、推定は可能であるが測定値が無い。このため、共焦点レーザー蛍光顕微鏡において、水面選択的な観測となっている保証に根拠が乏しい。蛍光スペクトルシフトの検討と偏光依存測定とにより、水面選択的な観測を確認した上で、蛍光時間相関解析によりクラスター形成の決定的な証拠を得る。その上で、蛍光励起スペクトルも合わせて水面分子の特性の検討を進める。すなわち、データを解析して、水面上のクラスターのサイズや運動様式、水面上での吸着位置(深さ)、水面に対する遷移モーメントの向き(分子配向)等を検討し、状態を明らかにする。なお、ベンゼンのような小さな分子が、水面でクラスターを形成するか否かは不明である。クラスターを形成しないことが証明できた場合には、ベンセンとローダミン色素との中間のサイズの化学種にクラスター形成の閾値が存在するはずであり、それを見極めることが課題となる。
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