本研究では、合金等の無機材料以外では知られていなかった“超弾性”という物性を有する“金属錯体”の探査および合成を目的としている。また、超弾性変態における可逆的結晶構造変化を利用して、金属錯体の固体物性を制御する手法の開発を目指す。 “超弾性”とは、塑性変形した固体が自発的に形状回復する特性であり、金属材 料学が扱う合金等の特性とされてきた。2014年に有機物分子の単結晶において超弾性現象を発見し、その後、一次元鎖状の金属錯体においても超弾性現象が現れることを見いだしていた。 昨年度までの研究では、超弾性を示すと期待される金属錯体を新規に設計・合成研究を進めた結果として、金属中心よりも有機配位子部位の錯体分子間相互作用が重要であるとの知見を得ていた。そこで、今年度は金属錯体配位子部に類似性の高い低分子有機単結晶体での超弾性ならびに強弾性体の合成により超弾性金属錯体設計指針に不可欠となる構造解析に基づく固体変形性機構の理解を目指した。その結果、金属錯体配位子部に相当する低分子有機結晶だけでなく、有機金属化合物等でせん断変形により超弾性または強弾性を示す単結晶を見出し、分子配向変化によって双晶変形が達成されているのが明らかになった。
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