当研究室で偶然発見された「温度に応答して力学物性が可逆的かつ劇的に変化する体積変化を示さない(アイソコリック性)ハイドロゲル」について、最終年度である2019年度は成果をとりまとめメカニズムを解明し、材料分野で権威ある雑誌Advanced Materials(IF=25.8)に論文がアクセプトされ、バックカバーに採択された。本ゲル材料は、ある温度以上で高分子濃厚相と希薄相に分離するスピノ-ダル分解型の相分離現象を示す。その際、温度の上昇とともに高分子濃厚層は可塑剤である水を失い、ある臨界濃度を超えるとゴム状態からガラス状態へ転移する。一般的に高分子は低温でガラス状態、高温でゴム状態をとるが、本ゲルはその逆で、昇温とともにゴム-ガラス転移を示す初めての例である。これまでの先行研究においても、このような熱相分離現象を示すゲルが報告されているが、弱い相分離のため、弾性率の上昇は大きくはなかった。強い相分離を形成させるために、静電相互作用と疎水性相互作用の相乗作用を導入した。静電相互作用はクーロンの式で表されるように、その結合強度は環境の誘電率に反比例する。すなわち、結合強度は、誘電率の高い水中では小さく、高分子や有機溶媒環境では高くなる。これを利用して、相分離後の高分子濃厚相にイオン結合が取り込まれるように設計することで、水を失っていくことで次第に誘電率が下がり、イオン結合が増強される。この作用によって濃厚相の高分子間相互作用が高まり、ガラス化まで達する。このような機構は、温泉源や海底熱水鉱床などの高温でも生存できる好熱菌のタンパク質安定化メカニズムにも見られ、生物が構造強化に利用する優れたシステムである。この成果を基に国内・国際特許を出願完了し、現在複数の企業と本材料を用いた応用を進めている。
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