研究課題/領域番号 |
17K19151
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
間中 孝彰 東京工業大学, 工学院, 教授 (20323800)
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研究分担者 |
田口 大 東京工業大学, 工学院, 助教 (00531873)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | キラリティ / 円偏光重合 |
研究実績の概要 |
分子の鏡像同士が重ならない性質を表す分子キラリティは、軸性ベクトルである磁場との相互作用のため、新規な電子・光機能性材料への応用が期待できる。本研究では、光電場と励起状態分子との相互作用によるキラリティ発現機構の解明や、キラル増幅に関する検討から、キラル高分子の新規な電子・光機能性材料としての可能性を探る。 本年度は昨年度に引き続き、円偏光紫外光照射によるキラルポリジアセチレン重合について、そのメカニズムの解明を目的として、重合波長依存性に関する検討を行った。また、キラルポリジアセチレンのインダクタンス成分の検出を試みた。重合波長依存性については、紫外光をモノマーの吸収波長近傍の波長を10 nmごとに変化させて重合させ、CDスペクトルを測定した。その結果、光吸収波長前後で、キラリティの逆転が観測された。このモノマーの吸収ピーク波長を境にしてキラリティが反転するという事実から、モノマー分子の誘電応答が関係していると考え、光と分子の相互作用に着目し、古典的なモデルであるローレンツモデルを用いて説明を試みた。複素誘電率の実数部は光に対して誘起されてる振動分極の位相の遅れや進みを表す。円偏光照射時はこの回転方向において位相のズレが生じ、これがねじれ方向に力として働くことでポリマーがねじれ、キラリティが生じると仮定した。ローレンツモデルによる計算から、光吸収波長前後でこの位相が逆転するため、キラリティの逆転が観測されると予想しこれは実験結果と良く一致した。一方で、キラルポリジアセチレンのインダクタンス成分の検出では、直流抵抗成分が大きいため、装置の測定精度範囲内においてインダクタンス成分について有意な検出ができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
励起波長の変化にともなう、吸収波長前後でのキラリティ逆転については、再現性よくデータが得られるようになった。ローレンツモデルモデルという古典的なモデルから、吸収波長の前後で、モノマー分子に誘起されるトルクの向きが反転することが予測され、実験結果ともよく一致する。一方で、キラルポリジアセチレンのインダクタンス評価については、薄膜の直流抵抗成分の大きさが課題となっている。現在、ドーピングによって直流抵抗成分の低減を試みている。また、ポリジアセチレンではなく、キラルペロブスカイト結晶の作製にも成功しており、直流抵抗成分の小さなキラルペロブスカイトでインダクタンス成分が検出できる可能性がある。一方で、キラル分子同士の相互作用を確認するため、分子軌道計算を持ちた検討を行った。モデル分子としては、対称性の高いペンタセン近傍にキラル分子を配置した超分子を用いた。ペンタセンとキラル分子間の距離を近づけるにつれて、ペンタセンにコットン効果が観測されるようになった。ペンタセンの構造には、キラリティがないため、キラル分子とペンタセン間で弱いhybridizationが生じたためと考察した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、重合波長依存性の結果(励起波長の変化にともなう、吸収波長前後でのキラリティ逆転)については、現在論文を執筆中である。また現時点で、キラルポリジアセチレンのインダクタンス評価が完了していないため、これについては引き続き検討を進めたい。ドーピング分子の選択によっては、直流抵抗成分が低減されることが確認できているため、ドーピング条件の最適化を行う。また、前述したようにキラルペロブスカイトにおいてインダクタンス成分の検出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文執筆および、追加実験が必要となったため、研究期間を1年度延長した。そのため、次年度への繰り越しが生じた。次年度において、追加実験および論文投稿料として使用する予定である。
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