研究課題/領域番号 |
17K19168
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高木 成幸 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50409455)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 水素化物 / 遷移金属錯体水素化物 / 固体イオニクス |
研究実績の概要 |
錯体水素化物は、ホウ素や窒素など特定の非金属元素、あるいは遷移金属元素に複数の水素が配位した『錯イオン』、およびそれらを電子供与により安定化させる『金属陽イオン』からなる代表的な高密度水素化物である。特に、遷移金属元素からなる錯イオンを含むものを遷移金属錯体水素化物と呼ぶ。本研究では、“高水素配位化”により誘起される錯イオンの高速回転運動によって周囲の可動イオンの伝導性を極限まで高め、これまでイオン伝導体としては全く注目されていなかった遷移金属錯体水素化物において、アルカリ金属やアルカリ土類金属イオンなどの室温での高速イオン輸送を実現する。これらを固体電解質に用いた革新的全固体電池のデバイス実証を踏まえ、従来の固体イオニクスの延長線上にない新たな固体イオニクスを開拓することを本研究の最終目的とする。
平成29年度は、水素配位数を極限まで高めたモリブデン系錯イオン、および多量のリチウムイオンからなる新たな錯体水素化物を研究対象とし、主に理論的観点からリチウムイオン伝導特性の評価・解析を進めることに注力した。拡張した計算機リソースを利用した第一原理分子動力学計算により、当初の予測どおり、室温近傍における高水素配位錯イオンの高速回転運動の発現、およびそれに伴うリチウムイオンの結晶内高速拡散を捉えることに成功した。また、錯イオン内における水素の動的挙動解析においても新たな進展があり、前述の錯イオンの高速回転運動が「擬回転」と呼ばれる分子振動に起因すること、その結果、極めて低い温度領域においても発現し得ることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでイオン伝導体としては全く注目されていなかった遷移金属錯体水素化物において、液体電解質に匹敵し得る極めて高いリチウムイオン伝導の発現を理論的に示したことに加え、高水素配位錯イオンの擬回転により促進される高速イオン輸送、という新機構でのイオン伝導の可能性を見出したことなどを踏まえ、当初計画とは異なり理論計算に注力したものの、おおむね計画が順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、一連の理論予測の実験実証、ならびに原理実証に注力する。単相試料の高圧合成とそのイオン伝導度評価を踏まえ、合成試料を固体電解質として実装した全固体電池デバイスを創製、その充放電特性を評価する。また、拡張した計算機リソースによる理論計算と、ラマン/赤外分光スペクトルその場観察などの相補利用によって高水素配位錯イオンの高速回転機構を解明するとともに、それらを踏まえた材料設計指針を構築、固体電解質としての組成最適化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度は理論計算と実験に並行して取り組む予定であったが、理論計算において特に当初計画を上回る進展があったため、集中して進めた。得られた知見を踏まえ、30年度は実験に注力する予定であり、29年度の執行を想定していた実験に関わる消耗品費、また技術補佐員の人件費を30年度分として計上する。
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