研究課題
半導体中に存在する格子欠陥は、光励起電子と正孔の再結合中心として働くことが経験的に知られており、欠陥密度の低減は、高性能な太陽電池や光触媒を開発する上で欠かせない共通課題である。そしてそのためには、半導体中に存在する格子欠陥を適切に評価する手法が不可欠となるが、現状で我々は、材料の種類(組成や形状)を選ばず汎用的に適用できる測定手法を持たない。本研究では、光を吸収して励起状態となった発光性ルテニウム錯体が半導体へ電子を注入する現象に着目し、それに伴う発光減衰をモニターすることで半導体中に存在する格子欠陥密度の定量を試みる。具体的には、研究代表者が近年開発した格子欠陥密度の異なるルチル型TiO2とLUMO準位が異なる発光性ルテニウム錯体を用いることで、格子欠陥密度と発光減衰挙動の関連性を明らかとすることを目指している。平成29年度において実施した9ヶ月の研究で、当初の予定通りに一連の実験に必要なトリスビピリジン型のルテニウム錯体、ルチル型TiO2、およびそれらの複合試料の合成を済ませた。X線回折測定、紫外可視吸収測定などのキャラクタリゼーションを実施し、狙い通りの化合物が得られていることを確認した。さらには予備的な発光測定も実施し、微粒子懸濁系に特有な散乱光の影響を最小にして良好なスペクトルが得られる実験条件を明らかにした。これには発光モニター波長の選定が特に重要であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
研究開始時に計画していたルテニウム錯体、ルチル型TiO2およびそれらの複合試料を合成し、必要なキャラクタリゼーションまで済ませることができたため、概ね順調に進展していると判断した。
合成した一連のルテニウム錯体/ルチル型TiO2複合試料の発光測定を本格的に実施する。ルテニウム錯体の励起状態の酸化電位、ルチル型TiO2の格子欠陥密度が発光減衰挙動に与える影響を詳細に調べる予定である。
・繰越額が生じた状況他機関への異動が決まったグループメンバーからいくつかのルテニウム錯体を引き継ぐことができたため、ルテニウム錯体合成に必要な試薬購入費用を浮かせることができた。また、当初計上していた招待講演のための海外出張費用が、急遽先方負担でまかなえることになった。・平成29年度分予算とあわせた使用計画保有する分光器のスペック向上およびオプションパーツ購入に充てる予定である。さらには、新たに参加が決まったシンガポールでの国際学会12 th International Conference on Ceramic Materials and Components for Energy and Environmental Applications (CMCEE 2018)への旅費に充てたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
ACS Appl. Energy Mater.
巻: 1 ページ: 1734-1741
10.1021/acsaem.8b00256