研究課題/領域番号 |
17K19169
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
前田 和彦 東京工業大学, 理学院, 准教授 (40549234)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 半導体 / 格子欠陥 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
半導体中に存在する格子欠陥は、光励起電子と正孔の再結合中心として働くことが経験的に知られており、欠陥密度の低減は、高性能な太陽電池や光触媒を開発する上で欠かせない共通課題である。そしてそのためには、半導体中に存在する格子欠陥を適切に評価する手法が不可欠となるが、現状で我々は、材料の種類(組成や形状)を選ばず汎用的に適用できる測定手法を持たない。 本研究では、光を吸収して励起状態となった発光性ルテニウム錯体が半導体へ電子を注入する現象に着目し、それに伴う発光減衰をモニターすることで半導体中に存在する格子欠陥密度の定量を試みる。具体的には、研究代表者が近年開発した格子欠陥密度の異なる酸化物半導体粉末とLUMO準位が異なる発光性ルテニウム錯体を用いることで、格子欠陥密度と発光減衰挙動の関連性を明らかとすることを目指している。 本年度は新たに、九州大学山崎仁丈教授との共同で格子欠陥(具体的には酸素欠陥)密度を精密に制御したSrTiO3粉末試料の合成に成功した(ACS Catal.誌で発表)。この粉末試料にメチルホスフォン酸基をアンカー配位子として有するRu(II)トリスジイミン型錯体を吸着させ、Ru錯体の光励起後のSrTiO3への電子注入過程を時間発光分光法で観察した結果、酸素欠陥密度の高いSrTiO3ほどRu錯体の発光減衰が早まることがわかった。すなわち、励起状態のRu錯体からはSrTiO3への伝導帯への電子注入(よく知られている色素増感太陽電池における電子注入)に加えて、酸素欠陥への電子注入が起きていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子欠陥を精密に制御したSrTiO3粉末試料の合成に成功し、Ru錯体との複合体における発光減衰測定から、当初狙いとしていた格子欠陥密度と発光減衰挙動の関連性の一端を明らかにすることに成功したことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
異なるジイミン配位子をもった類似のRu錯体を合成する。具体的には、メチル基あるいはトリフルオロメチル基をジイミン配位子に導入して、励起状態のRu錯体の酸化電位を制御する。これらのRu錯体を先に合成に成功したSrTiO3粉末試料に吸着させ、発光減衰挙動がどのように変化するかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越額が生じた状況:当初計上していた招待講演のための出張費用が、先方負担でまかなえることになったため。 平成30年度分予算とあわせた使用計画:新たに参加が決まった韓国での国際学会International Conference on Photocatalysis and Photoenergy 2019、およびカナダでの2nd Global Forum on Advanced Materials and Technologies for Sustainable Development (GFMAT-2) combined with 4th International Conference on Innovations in Biomaterials, Biomanufacturing, and Biotechnologies (Bio-4)への旅費に宛てたい。
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