研究課題
半導体中に存在する格子欠陥は、光励起電子と正孔の再結合中心として働くことが経験的に知られており、欠陥密度の低減は、高性能な太陽電池や光触媒を開発する上で欠かせない共通課題である。そしてそのためには、半導体中に存在する格子欠陥を適切に評価する手法が不可欠となるが、現状で我々は、材料の種類(組成や形状)を選ばず汎用的に適用できる測定手法を持たない。本プロジェクトでは、光を吸収して励起状態となった発光性ルテニウム錯体が半導体へ電子を注入する現象に着目し、それに伴う発光減衰をモニターすることで半導体中に存在する格子欠陥密度の評価を試みてきた。本年度における最も重要な成果は、半導体表面の欠陥による励起キャリアの捕捉効果を、表面に吸着した色素をプローブとして明らかにしたことである。具体的には、酸素欠陥密度を精密に制御したSrTiO3粉末試料表面にルテニウム錯体色素を吸着し、その発光寿命を調べることで、SrTiO3表面における励起キャリアの捕捉効果を調べた。その結果、SrTiO3中の酸素欠陥濃度の上昇によって光励起キャリアの捕捉が促進されることと、酸素欠陥濃度の上昇によってその捕捉が抑制されることを明らかにした。さらには、励起状態の酸化電位の異なる複数のルテニウム錯体色素をプローブとした表面欠陥の調査法によって、欠陥が持つエネルギーレベルを特定することが出来ることも明らかにした。色素増感型光電変換材料の分野では、吸着色素から半導体表面欠陥への励起キャリア移動は性能低下に直結する大きな問題と考えられているが、半導体の欠陥濃度と明確に関連付けた研究は本系がはじめての例である。この成果は、J. Phys. Chem. C誌に発表した。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
The Journal of Physical Chemistry C
巻: 123 ページ: 28310~28318
10.1021/acs.jpcc.9b09781
Journal of Materials Chemistry A
巻: 7 ページ: 26139~26146
10.1039/C9TA08216F