研究課題/領域番号 |
17K19172
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
赤松 寛文 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10776537)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 強誘電体 / 金属 |
研究実績の概要 |
ガウスの法則によると、導体の内部においては伝導キャリアによる遮蔽のため電界は存在しない。それによって、電気双極子モーメントの形成やその長距離的秩序が阻害され、中心対称性を破る構造歪みが起こりにくくなる。つまり、電気的極性を示す(ポーラーな)点群に属する原子構造と金属的な電子構造を併せもつポーラーメタルは必然的に希少になる。半世紀以上も前に「金属における強誘電様相転移」が原理的に起こり得ることが予言されたが、これまでにまだ30種類程度しか報告されておらず、そのほとんどがセレンディピティを通じて発見されたものである。このポーラーな構造と金属的電気伝導性を併せ持つ物質内部および表面の静電的状態は、極めて想像しがたいものであり非常に興味深い。しかし、その希少さゆえに未開拓な研究領域のままである。本研究では、理論計算と実験的手法を結合させることにより、ポーラーメタルを探索することを目的とする。 ポーラーメタルの設計において最も重要な点は、物質内の伝導キャリアにより阻害されない、強固な構造歪みにより中心対称性を破るということである。ペロブスカイト型酸化物の実に90%以上で見られる構造歪みである酸素配位八面体回転は、その一つと考えられる。本年度は、層状ペロブスカイトCa3Ti2O7の電子ドープ体のポーラーメタル特性の有無を第一原理計算により検証した。 中心対称性構造と極性構造の全エネルギー差の電子ドープ量依存性を密度汎関数法に基づいて計算したところ、電子ドープ量が高くなるにつれ、極性構造が中心対称性構造と比較してより安定になることがわかった。一方で、典型的な強誘電体であるBaTiO3に対して同様の計算を行ったところ、電子ドープを施すと直ちに極性構造は中心対称性構造に緩和することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算の結果より、層状ペロブスカイトCa3Ti2O7において極性構造歪みを引き起こす酸素配位八面体回転は、電子キャリアドーピングに対して強固であることが明らかになった。新規ポーラーメタル材料候補物質が見つかり、さらには、申請書で提案した材料設計指針の構築につながったと考えており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、第一原理計算により、その他の層状ペロブスカイト酸化物でも同様の結果が得られるかどうかを検討し、上記の材料設計指針の確立につなげる。また、申請者は実験系の研究室に異動したので、層状ペロブスカイトCa3Ti2O7を合成し、電子ドーピングを試みる予定である。放射光X線回折による構造評価および電気特性評価を行い、ポーラーメタル特性を評価する予定である。
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