研究課題
ガウスの法則によると、導体の内部においては伝導キャリアによる遮蔽のため電界は存在しない。それによって、電気双極子モーメントの形成やその長距離的秩序が阻害され、中心対称性を破る構造歪みが起こりにくくなる。つまり、電気的極性を示す(ポーラーな)点群に属する原子構造と金属的な電子構造を併せもつポーラーメタルは必然的に希少になる。実際にこれまでにまだ30種類程度しか報告されていない。このポーラーな構造と金属的電気伝導性を併せ持つ物質内部および表面の静電的状態は、極めて想像しがたいものであり非常に興味深い。本研究では、理論計算と実験的手法を結合させることにより、ポーラーメタルを探索することを目的とした。ポーラーメタルの設計において最も重要な点は、物質内の伝導キャリアにより阻害されない、強固な構造歪みにより中心対称性を破るということである。ペロブスカイト型酸化物の実に90%以上で見られる構造歪みである酸素配位八面体回転は、その一つと考えられる。そこで、層状ペロブスカイトCa3Ti2O7の電子ドープ体のポーラーメタル特性の有無を第一原理計算により検証した。中心対称性構造と極性構造の全エネルギー差の電子ドープ量依存性を密度汎関数法に基づいて計算したところ、電子ドープ量が高くなるにつれ、極性構造が中心対称性構造と比較してより安定になることがわかった。また、Ca3Ti2O7粉末試料を固相反応法により合成し、CaH2と混合、真空封入した後加熱することにより、H-イオンドーピングを施した。放射光XRD測定により、結晶構造はポーラーな空間群Cma21に属することが明らかになった。電気抵抗の温度依存性を調べたところ、半導体的な電子伝導性を示すことがわかった。ポーラーメタル化するにはキャリア濃度の増加が必要であるが、本研究ではポーラーメタルの設計指針に関する大きな知見を得ることに成功したと言える。
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