研究課題/領域番号 |
17K19175
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩原 理加 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (30237911)
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研究分担者 |
松本 一彦 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (30574016)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | フッ素 / 電解 / 溶融塩 / フッ化銅 / フルオロハイドロジェネート |
研究実績の概要 |
近年、フッ素ガスを用いた研究が農薬、薬学、半導体産業などで注目されており、工業的、および研究室レベルでの需要も高まっている。現在のフッ素ガスの製造はK(FH)2F溶融塩(融点: 71.7°C)を約90°Cにおいて電気分解することでアノードから得られる。この方法では電気分解の際に温度調節装置やフッ素ガスとカソードから発生する水素ガスとの圧力調整等が必要になり、装置が大型化してしまうため、研究室あるいは小規模な工業レベルでのフッ素電解製造は難しい。本申請研究では、小規模なフッ素ガス製造法の開発を目的とし、電解液に金属フッ化物を溶解したCs[(FH)2.45F]を用いたフッ素ガス電解製造法を検討した。Cs[(FH)2.45F]は融点が低い(融点: 16.9°C)、HFの解離圧が低い、電気伝導率が高いなど、コストを除けばフッ素ガス製造の電解浴として優れた性質を示す。さらに、電解液に金属フッ化物を溶解させることで、カソード反応を水素ガスの発生でなく金属フッ化物の還元による金属の析出として安全性を高めることができる。このフッ素ガス製造法においては、フッ素ガスと水素ガスの混合の可能性は極めて低くなり、安全上有利であるとともに、装置の小型化が可能である。本研究では特に、電解液に溶解させる金属フッ化物としてCuF2、AgF、FeF3を検討し、溶解度の点などからCuF2が最適であると結論した。電解による定常的なフッ素ガス発生を確認した後、ガスビュレットを用いた測定によるフッ素ガスの発生量と電流値から電流効率を求め、脱水のための予備電解を行ったセルにおいて85%の電流効率を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cs[(FH)2.45F]への溶解度が高く、水素発生電位よりも還元電位が十分貴である最適フッ化物としてCuF2を見出すことができた。CuF2を溶解させたCs[(FH)2.45F]溶融塩(10mL程度)を用い、カソード電位が水素発生の起こらない電位(-0.9 V vs. CuF2/Cuより貴)に保たれていることを確認しながら100 mAで定電流電解を行うことができた。発生したガスをKIと反応させたところI2への酸化による赤褐色への変色が見られ、フッ素ガスの発生が確認された。この時カソードでは水素ガス発生による気泡や圧力増加は観測されず、代わりに赤褐色の銅の還元析出が確認された。その後、発生したフッ素ガス体積をガスビュレットによって測定し、電流効率を求めたところ、効率は予備電解により向上し、最大で85%となった。このように当初の目的であるフルオロハイドロジェネートに溶解したCuF2の電気分解により、水素発生を起こすことなく、フッ素ガスの製造に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で電解浴として選択されたCuF2を溶解したCs(FH)2.45Fでカソードに析出する銅の析出形態を調べる。デンドライト成長する場合は陽極との短絡を防ぐため、電極をフルオロプラスチックで囲うなどの工夫が必要となるので、セル設計に実験結果を反映させる。現在発生ガスがF2であることはKIを激しく酸化する、IRで検出されないなどが証拠となっているが、F2による酸化のみで生成しうるフッ化物を生成ガスを用いて合成することにより、直接の証明を行う。発生ガス中のフッ素ガスの純度、含まれる不純物の同定、定量を行う。金属の析出について、電流値による制御、電圧値による制御の両方を行い、析出形態、析出速度、電流効率について電流値あるいは電圧値とどのような関係にあるかを明確にする。また電解時の過電圧の発生要因を特定し、KF・2HF系で起こる陽極効果の有無を確認する。
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