研究課題/領域番号 |
17K19177
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移金属酸化物 / 薄膜 / 酸素イオン伝導 / 界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、原子レベルで構造制御した遷移金属酸化物薄膜とそのヘテロ構造を作成し、それらの試料での酸素イオン伝導の制御を実証することで、「界面イオニクス」と呼ぶべき新しい学術分野を開拓することを目標としている。 酸素欠損ペロブスカイト(ブラウンミレライト)構造SrFeO2.5に着目し、 [SrFeO2.5]/[GdScO3]ヘテロ構造を作製した。界面付近での構造に注目してHAADFおよびABF法電子顕微鏡観察を行った結果、厚さ約5 nm程度の極く薄い界面近傍領域では、ブラウンミレライト構造を特徴づけるFeイオンの酸素八面体と四面体の交互秩序配列が大きく乱れ、酸素配位環境が無秩序配列となった特異な構造が安定化されることを見い出した。この構造は、SrFeO2.5が800℃以上の高温で示す無秩序酸素配列構造であり、ヘテロ構造界面ではこの高温で実現する酸素配位環境の融解が室温で安定化されていることを示している。実際、メスバウアー分光や原子レベルでの電子顕微鏡観察によるEELS分光の結果もFe3+という形式価数は変化しておらず、Feイオンの周りの酸素配位環境のみが変化していることを示している。これは、配向したブラウンミレライト構造SrFeO2.5薄膜と基板のGdScO3との格子ミスマッチにより、界面近傍でこの格子歪みを緩和するために、酸素配位環境の乱れが導入された結果と考えることができる。 このような高温での酸素配位環境無秩序相は高い酸素イオン伝導性を示すことがバルク材料から示されており、界面でのイオン伝導の可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パルスレーザー蒸着法を用いて、原子層単位で成長を制御しながらヘテロ構造を作成する基盤技術は確立しつつある。また、HAADFおよびABF法を駆使した電子顕微鏡観察と高分解能の(放射光)X線回折を併用した構造解析により、界面での構造変化を解明する手法も整ってきた。これらにより、成長した薄膜の構造評価に関しては十分なレベルで行えることが実証できている。特に、原子分解能のEELS分光により、界面を含めた局所構造の電子状態までも議論できるようになってきた。 一方、イオン伝導度の測定システムはその構築を進めている。インピーダンス測定やイオンブロッキング法による測定技術を確立し、イオン伝導と電子伝導を分離し、おのおのの寄与を明らかにすることができるようにする予定である。 さらに、2次元でのイオン伝導に関しては、バルク材料でのイオン伝導にも新たに注目し検討を開始した。ペロブスカイト構造酸化物LaCa2Fe3O9では、高圧合成とオゾン酸化を用いたトポタクティックな反応合成により、同じ化学組成でありながらAサイトのイオンが層状と無秩序に配列した2つの物質を作り分けることに成功した。そこで、この2種類の物質での酸素イオン伝導度を比べることで、酸素イオンがホッピングする際のAサイトのカチオン配列の違いに起因する2次元的な静電ポテンシャルの影響を明らかにすることを考えている。バルク材料でのイオン伝導性を含めた新材料でのアイオニクスも新たに展開することにした。 以上のように、バルク材料でのイオン伝導特性測定への展開も加えた結果、イオン伝導を中心とする界面アイオニクスに関する成果としては未だまとまっていないが、初年度の研究全体としては、概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き高品質なエピタキシャル薄膜の作成によるヘテロ構造の作成とそれを用いた界面でのイオン伝導に注目した実験を行う。[SrFeO2.5]/[GdScO3]ヘテロ構造では、酸素欠損が乱れた層の厚さが僅か数ユニットセルしかなく、明確なイオン伝導を確認することが容易ではない。界面層の厚さのチューニングや人工格子化することで、界面での酸素イオン伝導の挙動をさらに詳しく検討する。 さらに、2次元でのイオン伝導に関しては、バルク材料でのイオン伝導に注目し、新たな材料系も対象に加える予定である。ペロブスカイト構造酸化物LaCa2Fe3O9では、Aサイトのイオンが層状と無秩序に配列した2つの物質を作り分けることにより、酸素イオンがホッピングする際のAサイトのカチオン配列の違いに起因する2次元的な静電ポテンシャルの影響が注目点となる。一方、ペロブスカイトのBサイトイオンも層状と無秩序の配列を作り分けることができる。オゾンによるトポタクティックな酸化反応と高圧法を使うと同じ化学組成Ca2FeMnO6でありながら、おのおのBサイトのFe/Mnが層状に配列した物質と無秩序に配列した物質を作り分けることができる。同様に2次元的なイオンの配列が酸素イオンのホッピング伝導に大きな影響を与えることが予想されるので、これらの物質合成とイオン伝導性を含めた特性評価を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度であり、ヘテロ構造を構成する単一酸化物薄膜の作成条件の検討に多くの実験が費やされた。ヘテロ構造に比べて、単一酸化膜の作製にはコストがかからなかったため、本年度は想定していたほどには研究費がかからなかった。 次年度にはヘテロ構造の作成が本格化するので、当該助成金と合わせて次年度請求分を合わせた予算が必要となる見込みであり、全体の計画は変更がない。
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