研究課題/領域番号 |
17K19178
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 良太 京都大学, 化学研究所, 助教 (80629890)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 可視プラズモニクス / 局在表面プラズモン共鳴(LSPR) / 無機ナノ粒子 / 合金 / 錬金術 |
研究実績の概要 |
金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)は貨幣金属と呼称され、本質的に可視域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収を示す唯一の材料群とされてきた。有機分子や金属錯体、無機半導体にとって可視光領域の光は分子内電子遷移や配位子から中心金属への電荷移動(LMCT)、バンド間遷移などを誘起する極めて重要な波長領域であるにも関わらず、これらの遷移過程を高効率化し得るプラズモン材料は、ここ160年来、実質的にはAuとAgまたはその合金のみであった。 このような背景の中、我々は可視領域にLSPR吸収を示す新たな金属材料としてインジウム(In)とパラジウム(Pd)の塩化セシウム型合金(B2-PdIn)を発見した。本研究では、B2-PdIn を手掛かりに、新規プラズモン材料の設計指針を立案・検証することを目的としており、初年度は、我々が発見したB2-PdInナノ粒子のプラズモン特性を既存材料であるAuやAgと比較することでプラズモン材料としてのポテンシャルを評価した。その結果、B2-PdInはAuやAgよりもより長波長(低エネルギー)側にLSPR吸収を示す一方で、既存のプラズモン材料と同等のQ値(LSPR吸収ピークのピーク波長と半値幅から算出)を有することが判明した。また、B2-PdInはナノ粒子のサイズ増大に伴うLSPR波長の長波長シフトが大きく、粒径を最適化することで、既存材料の球状ナノ粒子では困難であった近赤外域近傍の光の高効率利用を可能とする新規プラズモン材料になり得ることが明らかとなった。同時に、B2-PdInは貨幣金属に類似した電子構造(フェルミ近傍状態密度(DOS))を有しており、可視域におけるLSPR吸収ピークの発現において、電子構造が極めて重要な因子となっていることが理論計算によって確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度当初に掲げた研究計画として(1)B2-PdInナノ粒子のプラズモン特性の評価(Au、Agナノ粒子との比較)および(2)B2-PdInナノ粒子における可視LSPRの起源解明の2項目が挙げられる。「研究実績の概要」に記載した通り、(1)に関しては、B2-PdInナノ粒子が既存材料と比較しても遜色のない可視プラズモン材料になり得ることを実証し、B2型合金を研究対象とする有意性を再度強調することに成功している。(2)に関しては、可視域におけるLSPR吸収の発現と電子構造には密接な関わりがあり、LSPR吸収の強度や波長はフェルミ近傍の電子構造に依存して鋭敏に変化することを突き止めつつある。これらの知見はB2-PdIn以外の新規材料を設計する上で極めて重要な指針となり、実際に設計したいくつかのB2合金において、B2-PdInと同様に可視域におけるLSPR吸収の観測に成功した。このように、本研究のフェーズは可視プラズモンの起源解明から新規材料の設計と合成へと既に移行しつつあることから、現在までの進捗状況として、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、可視プラズモンの起源を結晶構造の観点から注意深く考察することでB2構造の意義や理想の結晶構造について理解を深化させる。これにより、今年度の検討によって得られた可視プラズモニック合金材料の設計指針の補強に努めるとともに、設計指針で示された新規材料の合成とそのプラズモン特性の評価に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
同一テーマでの学内ファンドや民間団体の研究助成金を獲得したため、基金である本助成金の次年度使用が適切であると判断した。 次年度使用額と翌年度請求分の助成金の一部については、本研究を効率良く推進するために必要となる実験設備の購入資金とする予定である。
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