第11族元素に分類される金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)は貨幣金属と呼称され、本質的に(球状でキャリア密度制御せずに)可視域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収を示す唯一の材料群として認識されてきた。無尽蔵とされる太陽光エネルギーの52%は可視域に分布しており、有機分子や金属錯体、無機半導体にとって可視域の光は分子内電子遷移や配位子から中心金属への電荷移動(LMCT)、バンド間遷移などを誘起する極めて重要な波長領域である。一方で、太陽光によってこれらの遷移過程を高効率化し得るプラズモン材料は、ここ160年来、実用的には第11族元素からなる単一金属や固溶合金のみであり、第11族元素以外の元素からなる規則合金の報告は皆無に等しい。 このような背景の下、我々は可視領域にLSPR吸収を示す新たな金属材料としてインジウム(In)とパラジウム(Pd)の塩化セシウム型合金(B2-PdIn)を発見した。本研究では、このB2-PdInを足掛かりとした新奇可視プラズモニック合金材料の設計指針の立案と検証を目的とし、設計指針の立案に資する新規材料群の探索に注力した。その結果、可視域やその近傍にLSPRを発現し得る有望なB2合金材料を複数種に渡って発掘し、実際に化学的または物理的な手法を用いてナノ粒子やナノ構造体を形成することでLSPR吸収ピークの発現に成功した。これらの結果は、最初に発見したB2-PdInが例外的な材料ではない事を端的に示しており、種々のB2合金材料が貨幣金属に変わる新たなな可視プラズモニック金属材料になり得ることを示している。
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