研究課題/領域番号 |
17K19185
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
近藤 美欧 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (20619168)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 錯体化学 |
研究実績の概要 |
現在我々人類が直面するエネルギー・環境問題を解決に導くために、太陽光や風力等の再生可能エネルギーを有効活用する技術の開発への要請が高まっている。とりわけ、天然の光合成反応を模倣し、太陽光エネルギーを化学エネルギー(水素・メタノール・アンモニア等)へと変換可能な人工光合成技術は大きな注目を集め、精力的に研究が行われている。しかしながら、天然の光合成システムに匹敵する効率を有した光-化学エネルギー変換触媒システムの構築は未達成である。 このような研究背景を踏まえ本研究では、高効率な光-化学エネルギー変換システムの構築を志向した新規触媒材料の開発に取り組む。より具体的には、活性中心に対し、光-化学エネルギー変換に不可欠な①光捕集サイト、②電子移動サイト、③基質認識サイトを規則的に配置した「反応場」を合理的に構築する手法を確立し、種々の光-化学エネルギー変換反応の高効率化を可能にする触媒プラットフォームの創製へと繋げる。 平成29年度の研究においては、自己集積化を利用することでフレームワークの構築が可能な置換基を有する金属ポルフィリン錯体を合成し、置換基の導入がその電気化学的特性ならびにCO2還元能へ与える影響を調査した。ピレン置換基を有するフリーベースポルフィリンは、鈴木-宮浦カップリングおよびピロールとの縮合反応により2段階で合成した。また、フリーベース体に金属挿入反応を行うことで金属ポルフィリン錯体を得た。得られた金属ポルフィリン錯体を室オウンで自己集合させたところ、、9.03Å×8.64Åの空孔を有するフレームワークを形成することがわかった。空孔は疎水性で、そのサイズがCO2の分子サイズよりも充分に大きいことが明らかとなった。また、触媒活性サイト間も近接した構造をとっており、基質の認識サイトとして機能することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究においては、化学エネルギー産出反応の代表的な例である二酸化炭素還元反応の触媒として機能することが知られる金属ポルフィリン錯体に対し、相補的π-π相互作用サイトを導入することで、“π集積型活性化結晶性ホスト(π-Electronic Activated Crystalline Host, PEACH)”が構築できることを明らかとした。更に得られた結晶性ホストは基質であるCO2の濃縮に適した疎水性空間ならびに近接した活性サイトを有していることも判明した。これらの知見は、本研究で目的とする光-化学エネルギー変換反応の高効率化を可能にする触媒プラットフォームの創製の根幹を成す非常に意義深いものである。従って研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までに得られた成果を礎に、今後は中心に導入する金属イオン(Mn+)を適宜変更することで、反応活性中心(M = Mn(酸素発生反応)、M = Fe (CO2還元反応)等)または光捕集サイト(M = Zn, Pt等)として機能する新たな結晶性材料の開発に取り組む。また、相補的π-π相互作用サイトとして、更に強固な骨格を構築可能なアレーン-パーフルオロアレーン(Ar-ArF)相互作用型サイトの導入についても検討を行う。開発したPEACHに対し、構造・電子状態の変化がその触媒能に与える影響を系統的に評価し、これにより得られた知見をさらに分子設計へとフィードバックさせることでより高機能な触媒システムの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予算計画においては、平成29年度に光反応の光源を購入する予定であった。しかしながら、当研究室に既設されていた同等の仕様を有する装置の使用頻度が低減したため、当初購入を予定していた装置の購入を見送った。また装置の導入に伴い必要となるガラス器具等の消耗品も不要となった。更に、本研究に研究協力者として参画する予定であった学生一名の参画が難しくなったため、当該学生の研究活動に必要となる消耗品費ならびに旅費が不要となった。以上の理由から次年度使用額が生じている。これらの予算に関しては次年度以降に試薬等の消耗品の購入費用ならびに研究代表者ならびに研究協力者の旅費に充てる予定である。
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