神経細胞は完全に分化を終えており細胞寿命が長い。このため、細胞内に有害な老廃物が蓄積しやすく、神経変性疾患に繋がりやすい。神経変性疾患全般にみられる特徴として、タンパク質凝集体や機能不全ミトコンドリアの蓄積がある。本研究では、選択的オートファジーによる、機能不全ミトコンドリアの選択除去を可能にする化合物の開発を目指している。 本年度も、研究計画にもとづき培養細胞を用いて化合物の評価を進めた。ミトコンドリアの選択的オートファジー(ミトファジー)は、その分解を正確に観察することが難しい。ミトコンドリアは互いに融合や分裂を繰り返すことによって数が変化すること、ミトコンドリアに近接する隔離膜の数はオートファジー分解の効率を必ずしも正確に反映しないことが知られている。さらに、ミトコンドリア生合成が促進されると、見かけ上は分解がないように観察される課題があった。 そこで、これまでの研究で用いてきた、ミトコンドリア形態、膜電位、ATP産生に加えて、新たにRosella色素を利用した。Rosellaは、赤い蛍光を発するタンパク質と、pH感受性の緑色蛍光タンパク質を融合させたものである。これをミトコンドリア内部のマトリックスに発現させた。オートファジーによって、ミトコンドリアが細胞質からリソソーム内に移動すると、pH変化によって緑色蛍光が消失する。この方法によって、正確にミトファジーの進行を検出できるようになった。 ミトファジーの機構として、Parkin-PINK1経路が最もよく研究されている。これらタンパク質の変異は、神経変性疾患のひとつパーキンソン病の原因となる。本研究で用いたAUTAC分子は、ミトファジー誘導においてParkinとPINK1のいずれも必要としないことが判明した。このことは、Parkinを欠くパーキンソン病においても、本研究の成果を適用できる可能性を示している。
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