植物,放線菌などの天然資源から得られる抽出エキスは,人知の及ばない骨格から成り立つ多様な化合物の混合物である.本研究ではこれまで天然物エキスへの応用例のない光化学反応を用い,構造多様性を増大させた「構造多様性ビオチン化人工天然物エキス」の創出と「新規生物活性分子の創成」を目的とした. 植物エキスの中に豊富に含まれるフラボノイド類に着目し,ケイ皮酸メチルを加え,UV照射することにより,光環化付加反応を起こさせることを計画した.まず,フラボノイドが豊富な植物として,市販の生薬9種を選定し,それぞれをメタノールにて抽出しエキスを得た.それぞれのエキスをメタノールに溶解し,ケイ皮酸メチルを加え,UV照射を行った.得られた混合物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて過剰のケイ皮酸メチルを取り除き,得られた混合物をLC-MSにて解析を行った.チョウジ,リョウキョウにおいて,光反応後に新規の化合物が得られることを確認し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー,ODS HPLCにて分離を行ったが,単離量が少なく解析が困難であった.また本方法は再現性が乏しく,光反応自体を精査することとした. ビオチンが付加したロカグラミド化合物が生物活性を保持できるかを検討するため,実際にビオチン化ロカグラミドの合成に着手した.チオフェン環を有するロカグラミドは,強いWntシグナル阻害活性を有することを見いだしている.そこで,ロカグラミドのベンゼン環上より,エチレングリコールタグを付加し,ビオチン部を結合させた化合物の合成を行った.合成は各段階,スムーズに進行し,ビオチン部を有するロカグラミド化合物2種の合成に成功した.これらは,活性は弱まったものの,Wntシグナル阻害活性を保持していた.このことにより,ロカグラミド化合物をビオチン化しても,生物活性が保持されることが示唆された.
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