昨年度までに検討により、分子内環化により大きな蛍光増強を示すチオエステル型のクマリン化合物を見出すことに成功している。しかし、このクマリン誘導体は、細胞内でベータ酸化による代謝を受けるものの最終的に目的とする分子内環化体を与えなかった。本年度は、クマリン蛍光団の構造を様々に変えてプローブの親水性を高めることで、細胞内の滞在時間を増加させ分子内環化を促進させる戦略に基づいて検討を行った。その結果、当初のジメチルアミノクマリン型のプローブよりも高い親水性を有するヒドロキシクマリン型のプローブが細胞内で分子内環化を起こすことをHPLC解析により明らとした。また、このヒドロキシクマリン型プローブを用いることで細胞のベータ酸化活性をイメージングできる可能性を示唆するデータを得ることに成功した。しかしながら、細胞内で生じる環化体は微量であり、代謝中間体であるチオエステルの環化反応は効率が十分でない事も同時に明らかとなった。この環化反応速度を大きく向上させる目的として、ベータ酸化を受ける脂肪酸側鎖の構造を変えた蛍光プローブの構造を継続して行っている。 細胞内代謝反応に関わる様々な酵素反応の蛍光検出を可能とするプローブの開発においては、昨年までにカルボン酸形成により瞬時に分子内環化反応を起こして蛍光色素を遊離するリンカー構造ユニット(auto-immolative linke)の開発に成功した。本年度は、このリンカーユニットを持つ蛍光プローブがいくつかの酵素反応のセンシングへと応用できることを証明した。また、本リンカーユニットは、水酸基やアルデヒドの形成によっても分子内環化反応を起こすことを明らかにした。以上の結果は、開発したリンカーユニットが様々な酵素反応センシングへと幅広く応用できることを示すものである。
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