システインパースルフィドは活性酸素の消去とシグナル伝達制御、含硫化合物の生合成、酵素活性調節、有害物質の解毒など生体内で多彩な機能を司ることが明らかになりつつある。システインパースルフィドの生理機能の理解には、システインパースルフィドおよびその関連物質がどのように生体内で生成し、さらにパースルフィドに由来するイオウ原子がアクセプターとなるチオール化合物にどのように転移していくのか、また最終的にどのように代謝・分解されているのか、を明らかにすることが重要である。本研究では、簡便かつ効率的な安定同位体イオウ[34S]でチオール基を標識したシステイン(Cys-[34S]H)の合成法を確立し、Cys-[34S]Hから生成するシステインパースルフィドおよびそこからのイオウ転移と代謝・分解を定量的かつ網羅的に解析できる分析基盤(活性イオウメタボロミクス)を構築することを目的とした。本年度、細胞に添加することで速やかに細胞内に透過し、さらに細胞内の活性イオウを顕著に増加させることができるケミカルドナーの作成に成功した。このドナーのイオウ原子を安定同位体イオウ[34S]で標識しておくと、細胞内の活性イオウが容易に[34S]で標識でき、さらに細胞内での代謝プロセスを詳細に追跡できることを明らかにした。以上のように安定同位体イオウの新規導入法、新規ケミカルドナーを駆使した質量分析法によるサルファーメタボロミクスを構築することができた。
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