本研究では、動植物から菌類にいたるまであらゆる生命体に必須であり、非常にユニークな構造 、化学反応性を示す生体内化学種であるヘムの生体内挙動の解明を目指し、生体内のヘムおよび関連分子を非侵襲的かつ選択的に検出するための多様な蛍光プローブ分子を開発し、これまで詳細な解析が困難であったヘムの細胞内輸送、取込、機能について、その全容を解明することを目的とした。当該年度においては、前年度に確立したヘム認識に必須な分子構造を使った細胞内ヘム蛍光プローブへの展開を実施した。これまでに、10種類の候補化合物を作成し、キュベット中でのヘム応答性、細胞への取り込み、および細胞内での応答性を評価した。その結果、3つの化合物については細胞膜透過性が見られたものの、細胞内でのヘム応答性は確認できなかった。ここで、細胞膜透過性の低さが主に問題となったこと、化合物の合成に時間を要することを加味し、これまでに合成した化合物について、脂溶性の指標であるcLogDを計算し、実際の細胞膜透過性と比較することで、予め膜透過性を予測することとした。実際、cLogDが一定の値を超えるものについて、細胞膜透過性が見られたことから、この指標をもとに分子を設計することとした。cLogDの値をもとに新たに設計・合成した化合物は良好なヘム応答性、細胞膜透過性を示し、細胞イメージングプローブの開発を達成した。一方、ヘム検出反応に基づくヘム特異的プロテオミクスについては、ヘム選択的に活性化される化合物を使った細胞内でのヘム選択的生体分子就職反応について、蛍光顕微鏡観察、および免疫沈降法にて検討した。その結果、細胞中での生体分子修飾反応はわずかに見られたものの、プロテオミクスへと展開するには不十分であった。一方、キュベット中ではヘム依存的なタンパク質修飾反応は起こっていることは確認できている。
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