ムコ多糖症とは先天性代謝疾患である。ムコ多糖症患者は生まれつきライソゾームに存在するグリコサミノグリカン (GAG) を分解する酵素が欠損しており、その結果、ムコ多糖が体内に蓄積し、臓器の肥大化や骨の変形など様々な障害を引き起こす。ムコ多糖症は進行性疾患のため、早期診断により、早期治療が必要である。そこで、早期診断を目的とした新生児マススクリーニングでのムコ多糖症の診断を可能にする基質の開発を検討した。ムコ多糖症に関わる酵素との親和性に優れたGAG型オリゴ糖を開発するために、糖鎖プライマー法によりGAG型糖鎖ライブラリーを作製し、ムコ多糖分解酵素に対する基質としての評価を行った。 糖鎖プライマー法とは培養細胞に糖鎖合成前駆体となる糖鎖プライマーを投与することによって細胞に糖鎖を合成させる手法である。本研究では、糖鎖プライマーとしてキシロース (Xyl) とセリン (Ser) が結合したXyl-Ser-C12などを用いて、ヒト皮膚繊維芽細胞などに糖鎖プライマーを投与することで、GAG型糖鎖ライブラリーの合成を行った。合成した糖鎖は逆相カラムを用いて脱塩・精製し、質量分析装置(ESI-IT-MSなど)を用いて配列解析を行った。ムコ多糖症診断基質化合物の探索のため、α-N-アセチルガラクトサミニダーセ゛ (GalNAcase) や、α-L-イズロニダーゼ (IDUA) などの酵素を用いて糖鎖ライブラリーの配列解析を行った。定量的な評価のため、MRM Modeでの測定を実施し、得られた13種類の糖鎖伸長生成物毎にCollision Energyを決定した。 結果として、糖鎖プライマー法によって得られた糖鎖ライブラリーの中に、GalNAcaseやIDUAの基質となる糖鎖が含まれている事を確認できた。これにより、ムコ多糖症Ⅰ型の診断基質となり得る糖鎖伸長生成物が得られた。
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