研究課題/領域番号 |
17K19216
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
児島 征司 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20745111)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 多剤耐性菌 / グラム陰性細菌 / 外膜 / 抗生物質 / 化合物スクリーニング |
研究実績の概要 |
[具体的内容] 2017年度は、グラム陰性細菌の外膜を不安定化することにより薬剤耐性を解消する化合物の取得を目指し、以下A, B, Cの研究を実施した。(A) コリシン蛋白質のTol-Pal複合体結合ドメインをペプチド合成し、大腸菌に投与して薬剤耐性レベルへの影響を調べた。(B) コリシン耐性化を指標としたTol-Pal 複合体形成阻害化合物のスクリーニングを、創薬機構が保持する化合物ライブラリー9,600化合物を使用して実施した。(C) 大腸菌の外膜不安定化現象を発色試薬を用いて比色定量できるスクリーニング系を開発し、化合物スクリーニングを行った。A, B については現時点で望ましい結果は得られていないが、今年度も引き続き実施していく。Cについては、外膜を著しく不安定化する性質を持つ2つの新奇化合物を得ることができた。当該化合物の存在下では大腸菌の薬剤耐性が顕著に低下していた。一方、外膜を持たないグラム陽性細菌に対しては効果を示さなかった。 [意義・重要性] グラム陰性細菌の外膜は、様々な生育阻害物質の細胞内流入を阻害するため、細菌の薬剤耐性に寄与して医療現場で深刻な問題を引き起こしている。従って、外膜の透過障壁性を解消することは、薬剤耐性問題の解決に向けた最も直接的な戦略の一つと言える。上記の成果は、我々が提示した「外膜不安定化の誘発」という新しいアプローチが実現可能であることを強く示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り、(A) コリシンのTol-Pal複合体結合ドメインを用いたTol-Pal 複合体形成阻害ペプチドの合成、(B) コリシン耐性化を指標としたTol-Pal 複合体形成阻害化合物のスクリーニング、の二つを実施した。研究の進捗は予定通りであったが、いずれも望ましい結果を得ることはできなかった。そこで、(C) 大腸菌の外膜不安定化現象を発色試薬を用いて直接的に比色定量できるスクリーニング原理を新たに開発し、創薬機構が保持する化合物ライブラリーを使用して化合物スクリーニングを実施した。その結果、外膜を著しく不安定化する性質を持つ2つの新奇化合物を得ることができた。さらに、当該化合物の存在下で大腸菌の薬剤耐性が顕著に低下することを確認した。研究手法としては計画外の内容となったが、結果として我々が望んだ性質を持つ化合物を得るに至っている。そのため、進捗状況の区分を「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始当初から実施している (A) コリシンのTol-Pal複合体結合ドメインを用いたTol-Pal 複合体形成阻害ペプチドの合成、(B) コリシン耐性化を指標としたTol-Pal 複合体形成阻害化合物のスクリーニング、については現時点で望ましい結果が得られていないが、今後も継続していく。計画の改善方策は以下の通りとする。(A) Tol-Pal 複合体結合に関与する最少領域を、大腸菌を用いた組換えコリシン発現系を利用して再度精査し、決定する。得られた最少領域をペプチドとして精製し、大腸菌に投与して薬剤耐性レベルへの影響を調べる。(B) 2017年度は創薬機構が保持する9,600化合物に対してスクリーニングを行ったが、今後は使用する化合物数をできるだけ増やしていく。具体的には、フルライブラリー(約30万化合物)を使用する。これらと並行して、2017年度の研究で得た「大腸菌外膜を不安定化する二つの新奇化合物」について詳細性質の解析を行う。具体的には、(1)当該化合物存在下での大腸菌外膜構造の電子顕微鏡観察、(2) 当該化合物の大腸菌以外のグラム陰性細菌への効能の調査、(3) 当該化合物類似体の性質解析、を行う。これらにより、グラム陰性細菌の外膜を不安定化するのに必要な化合物の化学構造を決定することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費および旅費の使用額についてはおおむね予定通りであったが、実験器具の修理等により予定外の支出が必要となったため使用計画を修正した。人件費・謝金の使用予定額を減額し、その他の支出に充てた。結果として、差引79900円の次年度使用額が生じたが、特に高額ではないため、次年度の使用計画自体は大きく変更せず、物品費に追加して使用する。
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