研究課題/領域番号 |
17K19221
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
岡田 洋平 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80749268)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | レドックス応答型色素 / 核酸脱メチル化 |
研究実績の概要 |
DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝形質の発現の変化は,一般にエピジェネティクスと呼ばれている.一例として,転写後のRNAの修飾によって様々な遺伝子の制御が行われていることが知られており,近年“RNAエピジェネティクス”として広く注目を集めている.中でもRNAのメチル化や脱メチル化は様々な生体現象に関連することが知られており,これらを触媒する酵素の研究が盛んに行われてきた.標的となる酵素の発現部位や活性の強さをリアルタイムで追跡する上では,天然の基質を模倣して設計・合成した蛍光プローブの利用が極めて効果的となる.現行の多くの蛍光プローブは蛍光色素とクエンチャー(消光剤)の組み合わせによって設計されており,標的となる酵素によって蛍光色素とクエンチャーが切り離されることで蛍光を発する仕組みになっている.しかしながら,メチル基を付加する,あるいは切り取るといった反応を触媒する酵素では,同様の指針に基づく蛍光プローブの設計は極めて困難である.そこで本研究では,現行の設計指針から脱却しクエンチャーを用いずに僅かな構造変化によって発光する,新たな蛍光プローブを開発することを目的とする.特に,現在までの進捗状況の欄で述べるように,肥満に関連することが知られているFTO酵素ではRNAからメチル基を酸化的に切り取ることが知られている.このような背景を踏まえて,本研究では酸化的な環境においてライトアップされる新規蛍光プローブの設計・合成に取り組んでいる.FTO酵素の天然の基質として報告されているN6-メチルアデノシンを基軸として,アデニン部位に蛍光色素前駆体を取り付ける戦略によって新規プローブを設計し,合成ルートを立案した.特に,予めリボース骨格に取り付けておいたアルキンを反応点とする環化反応によって効率的に塩基アナログを構築することを目指した反応探索を行い,有望な手法を見出している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,先進国における様々な疾病は肥満によって引き起こされることが知られている.人類は進化の過程において,飢餓を耐え凌ぐために血糖値を上げるホルモンを多く獲得している一方で,上がり過ぎた血糖値を下げるホルモンはインスリンただ一つしか持ち合わせていない.このような背景を踏まえて,肥満を抑制することは現在人にとって喫緊の課題となっている.最近になって,不満に関連する遺伝子Fat Mass Obesity(FTO)遺伝子が見出され,この遺伝子がコードしているタンパク質(FTO酵素)がRNAの脱メチル化反応を触媒することが明らかとなっている.すなわちFTO酵素の作用機序や発現部位,肥満との関連を調べることによって,肥満を引き起こすメカニズムの研究ひいては“痩せ薬”の開発に繋がることも期待できるため,大きな注目を集めている.しかしながら,分子量が数万から数十万におよぶ核酸において,メチル化や脱メチル化は全体としてほとんど構造変化を伴わないため,現行の分析技術でこれを検出することは極めて困難である.酵素活性をリアルタイムでモニタリングする上では蛍光プローブの利用が効果的であるものの,研究実績の概要に記載したように現行のクエンチャーに基づく設計では脱メチル化の検出はほぼ不可能である.研究代表者はFTO酵素による脱メチル化反応が酸化的に進行していることに着目し,これを活かして無蛍光のプローブをライトアップさせることができるのではないかと考えた.特に,研究代表者はこれまでの研究において,特定の置換基を有する芳香族アルデヒドが水を中心とした各種アルコール系溶媒中において高度な蛍光性を示すことを見出している.これまでの蛍光色素の設計指針を踏まえて,アデニン部位に核塩基アナログとして取り付けるべきサイズ適合性の二環式化合物を合成し,これらの化合物のレドックス反応に伴う蛍光特性を探索した.
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今後の研究の推進方策 |
ヌクレオシドのアナログを設計する場合,天然の構造に対して修飾可能な部位は大きく分けてリボース骨格あるいは核塩基部位の二つがある.これまでに様々な核塩基アナログの合成ならびにヌクレオシドへの導入が報告されており,天然の核塩基を模倣する上では水素結合ドナーおよびアクセプターを適切な位置に持つことだけでなく,核塩基のサイズや形もまた重要であることが見出されている.核塩基アナログを有するヌクレオシドを合成する場合,合成戦略もまた二つに大別することができる.すなわち,予め目的とする核塩基アナログを合成した上でリボース骨格に取り付ける手法と,リボース骨格に取り付けた反応点を足掛かりとして目的とする構造をリボース上で組み立てる手法である.前者の場合,リボースとは独立して予め核塩基アナログのみを合成するため,適用可能な反応には特に制約が掛からない.しかしながら,作り上げた核塩基アナログを最終段階においてリボース骨格に導入するため,この過程において膨大な時間と労力をかけて反応条件を最適化する必要がある.特にリボース骨格のアノマー位への導入にはα体とβ体が存在するため,たとえ目的とする結合形成反応そのものが進行したとしても,非天然型であるα体は“副生成物”となってしまう.これに対し後者では,リボース骨格のアノマー位への反応点の取り付けを全体の合成スキームにおける上流で完結させることができるため,スケールアップなどを含めた条件検討が容易に可能である.この手法の課題は,後続反応は全てリボース骨格上で行うことになるため,適用可能な反応に様々な制約が掛かることである.これらのトレードオフの関係を考慮し,本研究では予めリボース骨格に取り付けたアルキンを活かした付加環化によって核塩基アナログを組み立てることが最適であると判断した.反応条件を最適化し,目的とする蛍光色素前駆体を最短ルートで構築する.
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