研究課題/領域番号 |
17K19222
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
千葉 一裕 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20227325)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | ペプチド / 電気化学 / 縮合剤 / 化学合成 / 電子移動 |
研究実績の概要 |
電子そのものを触媒とするクリーンなプロセスを確立し,次世代の医薬品候補化合物であるペプチドの化学合成における原子の無駄を圧倒的に削減する.近年低分子と高分子抗体に加えて中分子サイズのペプチドが医薬品候補として注目を集めている.ペプチドは500~2000 Da程度の分子サイズでありながら,低分子では実現が困難なタンパク質-タンパク質相互作用に基づく薬理活性を獲得する可能性を有しており,構造活性相関やスクリーニングに関する研究が世界的に進められている.このようなペプチド医薬に関する研究開発を推進し,一つでも多くのペプチド医薬を実用化に繋げるためには,グラムスケールにおよぶ大量供給が可能な化学合成法が必要不可欠である. 代表的な縮合剤であるCOMUは1分子で,1分子のカルボキシル基の反応性を高め,目的の脱水縮合反応の進行に伴ってオキシマとウレアの2分子からなる不活性型へと変換される.不活性型の2分子は,フラスコ内で混ぜ合わせているだけでは決して活性型へと戻ることはない.これはウレアが極めて安定な化合物であり,反応性が低いことに起因する.一方でオキシマには依然として充分な反応性が残されていることから,ウレアの反応性さえ高めることができれば両者を繋ぎ合わせ,活性型へと戻すことが可能であると期待される.そこで平成29年度には,電極プロセスの中でも特に陽極での酸化反応を利用してウレアを“電子不足状態”のカチオン種へと導き,オキシマからの求核攻撃を誘起する.カチオン性を帯びたウレアは,速やかにオキシマからの攻撃を受けて活性型のCOMUを再生することが期待される.このプロセスでは電子そのものが触媒となってウレアの反応性を高めているため,反応の進行に伴う廃棄物は一切生じないため,ペプチド合成の効率を飛躍的に高めることが期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、当該目的にある電極プロセスの中でも特に陽極での酸化反応を利用してウレアを電子不足状態のカチオン種へと導き,オキシマからの求核攻撃を誘起する反応条件を詳細に検討し、引き続き必要となる再生反応のための最適化を行った。電解反応等の最適化に関する検討は計画通り進行している.この成果に基づき、平成30年度に予定されている研究を予定通り実施する。
|
今後の研究の推進方策 |
電子そのものを触媒とするCOMU再生プロセスを逆ミセル連続法と組み合わせることで,廃棄物の量を大幅に低減したペプチド化学合成を実施する.リュープロライドは9個のアミノ酸からなる分子量1209のペプチドであり,リュープリンという商品名で上市されている医薬品である.応募者は独自に開発した逆ミセル連続法によって2013年にリュープロライドのグラムスケール合成を達成しているが,依然としてリュープロライド1 g当たり5 g以上の縮合剤に由来する廃棄物を排出している.そこで平成30年度には,平成29年度に確立するCOMUの再生プロセスを逆ミセル連続法と組み合わせることで,限られた量のCOMUを系中で逐次再生しながらリュープロライドをモデルとしてペプチド化学合成を実施する.COMUの使用量を70%削減し,縮合剤に由来する廃棄物をリュープロライド1 g当たり1 g以内に抑えることを目標とする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は計画にある条件検討を詳細かつ重点的に検討した。この条件検討は、限られた薬品や器具の使用によって実施することができたため、予算執行は計画を下回った。しかしこの取組によって、次年度に完了予定の研究内容を計画通り完遂するための結果を得ることができた。また、次年度は本結果を基に、多様な試薬や器具を使用して、当初計画に基づき研究を実施するため、全期間の計画内容に基づき次年度使用額として有効に活用することができる。
|