研究課題/領域番号 |
17K19225
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
栃谷 史郎 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 准教授 (90418591)
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研究分担者 |
片山 高嶺 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (70346104)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | マウス母体腸内細菌撹乱モデル / 母乳 / 腸内細菌叢 / オリゴ糖 / 行動実験 |
研究実績の概要 |
仔を出生後の母親マウスから麻酔下で、オキシトシン投与による母乳採取の方法を確立した。搾乳器などを用いるより、手で乳房を揉む手法が最も確実に、かつ母親への負担が少なく母乳を採取できることが明らかになった。仔を出生後3日、9日目、16日目などの母乳採取を試みたが、出生後日数を経るにつれて採取が容易になり、1匹より採取可能な母乳量も増えることが明らかになった。その上で、研究代表者が確立した「母体腸内細菌撹乱モデル」の母親マウスと対照群の母親マウスの母乳を採取した。仔が生後9日目に達する時点での母乳におけるタンパク量とトリグリセリド量を測定したところ、明白な差異は認められなかった。ついで、研究分担者に依頼し、糖質分析によく用いられるHigh Performance Anion Exchange chromatography-Pulsed Amperometric Detection法(HPAEC-PAD)法により母乳中のオリゴ糖解析を行った。その結果、一部のオリゴ糖の母乳含有量が腸内細菌撹乱群で低下していることを見いだした。ただし、母乳中のラクトース濃度は変化していなかった。また、同じく生後9日目の母乳を用いてGC-MSを用いた母乳含有化合物の網羅的解析を行った。結果は現在解析中であるが、一部の化合物で両群間の差異が観察されている。また、オリゴ糖の入手が可能であったため、オリゴ糖を母体腸内細菌撹乱モデルの仔へ生後5-14日目にかけて経口投与する介入試験を実施している。もともとの母体腸内細菌撹乱モデルの仔の腸内細菌叢については多様性の低下という特徴があることが分かっているが、腸内細菌叢の網羅的解析の結果、部分的ながら仔の腸内細菌叢の多様性が上昇する結果を得ている。また、母体腸内細菌叢撹乱モデルの仔の行動には低活動や過度に壁沿いを好むなどの特徴があるが、仔への行動実験の結果、一部の行動については正常な方向へ変化する結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母体腸内細菌撹乱モデルの対照群と腸内細菌撹乱群の母乳について、タンパク、トリグリセリド、糖に関し比較は完了した。またGC-MSによる母乳含有化合物の網羅的解析を行っており、その結果の解析を進めている。母体腸内細菌撹乱モデルの母乳において、対照群の母乳に比べ、一部の母乳オリゴ糖濃度の減少も見いだしている。本研究開始時点で、マウス母乳採取法から、マウス母乳の成分などの情報が殆ど無かった点から見ると、研究は順調に進展していると考えている。また、オリゴ糖の比較解析の結果を基に、オリゴ糖を仔に投与し、その腸内細菌叢や行動を観察する実験もすでに開始している。その点でも順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めているオリゴ糖による母体腸内細菌撹乱モデルの仔への介入試験を完了し、糞便解析を進め、オリゴ糖による脳発達促進効果を確認する作業を行う予定である。その結果を基に論文を発表したいと考えている。また、母体腸内細菌撹乱モデルにおいては仔に行動の変化が観察される。さらに、その仔にオリゴ糖を用いた介入をすることで、腸内細菌叢の変化に伴い行動の変化(正常化)が観察されている。これらのメカニズムについて、脳の組織学的比較を行い、明らかにしていきたいと考えている。具体的には、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなどの分布や数を指標に比較を行い、またc-fos陽性細胞による脳の活性化部位の可視化などの方法で比較を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析が順調に進み、初年度に計画していた解析自体の費用そのものは圧縮できた。ただし、大学の設備状況から、次年度に予定していた組織学的解析などにおいて、複数の機器が新たに必要になり、消耗品も本来の計画より多く必要となることを認識した。そのため、次年度におけるそれらの購入費用に初年度の費用を一部使用することにした。
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