研究代表者が確立した「母体腸内細菌撹乱モデル」においては仔が行動の変容を呈す。このモデルの母親マウスと対照群の母親マウスの母乳を採取した。仔が生後9日目に達する時点での母乳におけるタンパク量とトリグリセリド量を測定したところ、明白な差異は認められなかった。ついで、研究分担者に依頼し、糖質分析によく用いられるHigh Performance Anion Exchange chromatography-Pulsed Amperometric Detection法(HPAEC-PAD)法により母乳中のオリゴ糖解析を行った。その結果、一部のオリゴ糖の母乳含有量が腸内細菌撹乱群で低下していることを見いだした。ただし、母乳中のラクトース濃度は変化していなかった。また、同じく生後9日目の母乳を用いてGC-MSを用いた母乳含有化合物の網羅的解析を行った。50種類強の化合物が検出されたが、一部の化合物を除き、両群間の明白な差異は認められなかった。明白な差異が認められた化合物も必ずしも子が依存する栄養素とは考えにくいものであり、対照群と母体腸内細菌撹乱群の母乳の間で明白な質的な違いを示す含有物はオリゴ糖のみであった。 オリゴ糖入手が可能であったため、オリゴ糖を母体腸内細菌撹乱モデルの仔へ生後5-14日目にかけて経口投与する介入試験を実施した。母体腸内細菌撹乱モデルの仔の腸内細菌叢については多様性の低下という特徴があることが分かっているが、腸内細菌叢の網羅的解析の結果、部分的ながら仔の腸内細菌叢の多様性が上昇する結果を得ている。Lactobacillus属を初めとして、いくつかの細菌属の占有率に変化が観察された。また、母体腸内細菌叢撹乱モデルの仔の行動には低活動や過度に壁沿いを好む空間嗜好性などの特徴があるが、仔への行動実験の結果、一部の行動に限っては顕著に正常な方向へ変化する結果を得た。
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