アブシシン酸(ABA)受容体PYLは,ABAとの結合により活性型配座に変化し,プロテインホスファターゼ2C(PP2C)と複合体を形成してその活性を阻害することで,ABAシグナル伝達に関わるリン酸化カスケードを活性化する。本研究では,PYLの配座変化(ゲート閉鎖)がABAシグナルのON/OFFを制御していることに着目し,光による立体構造変化と連動してPYLの配座を活性型と不活性型いずれにも切り替えることの出来る化合物の設計・合成に取り組んだ。異なる波長の光でE/Z互変異性化するアゾベンゼンをABAの環部分に導入したLIAP(Light-activated Agonist of PYL)/iLIAP(LIAPのantagonist型)を6-amino-1-tetraloneを出発物として8ステップ,総収率0.6%で合成した。シロイヌナズナ種子発芽試験において,LIAP/iLIAP(E/Z混合物)は単独で弱いABA活性を示したが,ABAとの共処理においてはABA拮抗活性を示した。Z体がPYLアゴニスト,E体がアンタゴニストとして機能した結果,このような生物活性を示したと予測した。 そこで本年度は,in vitro PP2C試験により各異性体の活性を評価した。Z体は予想通りアゴニスト活性を示したものの,その強さはABAのそれと比較して1/10以下であった。ABAとの共処理においては,予想に反して,Z体とE体いずれも弱いアンタゴニスト活性を示した。また,暗所胚軸伸長試験においてもin vitro試験と同様に,両異性体はともに弱いABA拮抗活性を示した。従って,Z体であってもアゾベンゼンの立体障害ゆえにPYLの配座を完全には活性型に誘導することが出来ず,フルアゴニストではなくパーシャルアゴニストとして作用したことが強く示唆された。
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