研究課題/領域番号 |
17K19227
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
饗場 浩文 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (60211687)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / 寿命 |
研究実績の概要 |
(1)分裂酵母のEcl1は高発現すると顕著な寿命延長効果を示すと共に、カロリー制限様の生理変化を引き起こすことが判っている。Ecl1は、対数増殖期から、定常期へ移行する際に一過的に発現が上昇することを見出していたが、この発現上昇に関わるシグナルを探索したところEcl1は硫黄欠乏に応答して発現上昇することを見出した。加えて、この誘導に関わる転写因子としてZip1を同定した。硫黄枯渇の影響を解析した結果、硫黄枯渇が寿命延長シグナルとして機能すること、これにEcl1ファミリーが関与することを見出した。 (2)経時寿命を延長する因子として見出していたPma1について、その活性を抑制することで寿命が延長することが想定できた。そこでPma1に特異的なインヒビターを見出し、構築したPma1のアッセイ系を利用して、インヒビター候補の活性を評価した。その結果、Pma1活性の抑制効果と経時寿命延長効果によい相関が認められ、Pma1活性が寿命に重要な役割を果たす事が確認できた。これによって、寿命制御因子の同定を基に、その機能解明を通して寿命制御創薬への展開が可能となることを示すことが出来た。 (3)寿命の全体像を理解するために長寿変異株や長寿遺伝子を大規模にスクリーニングした。スクリーニングにおいては、液体培地で長期間培養を繰り返すことで、生き残る長寿命変異株を濃縮した。これにより、効率的に変異株を取得することができた。現在、原因遺伝子を特定するためにゲノム解析を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Ecl1の機能を理解する上で、その転写誘導機構を解明することは重要であったが、Zip1が硫黄枯渇に応答した転写因子であることを見出すことができた。この過程で欠失可能な分裂酵母の転写因子を網羅的に探索した。 (2)分裂酵母の長寿命変異株の原因因子として見出したPma1(P-type H+-ATPase)について、その活性を特異的に阻害する阻害剤が報告された。しかしその入手が不可能であったため、学内の有機化学者と共同研究を行い、化合物ならびにその類縁体を合成し、Pma1の阻害活性ならびに寿命延長効果を確認できた。 (3)寿命制御の全体像を知るためには、多くの寿命因子の特定が重要であり、そのために大規模スクリーニングを進めた結果、98株の寿命延長変異株を取得できた。この中から、表現型の明確な変異株を選択し、ゲノム解析を進行中である。
以上の成果によって、本研究が目指す分裂酵母の寿命制御機構に関する知見が蓄積された。
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今後の研究の推進方策 |
残り1年間の研究期間のおいて、長寿命変異株のスクリーニングとその原因遺伝子の特定、ならびに特定された遺伝子産物の機能解析に注力する予定である。特に、高等動物にまで保存された因子に着目し、機能解析を行うと共に、機能制御に資する化合物を特定し、創薬展開の基盤情報を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
分裂酵母の長寿命変異株を大規模にスクリーニングしたところ、予想を超えて多くの変異株が得られたため、戻し交配による変異の純化に時間を要し、初年度に予定していたゲノム解析の一部が次年度にずれ込んだ。これにより、当該研究に関わる経費の一部を次年度に使用する予定である。
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