申請者は、分裂酵母をモデルに細胞寿命の制御機構を解明することを目指している。 今年度は、カロリー制限とは独立に分裂酵母の寿命延長を引き起こすことが知られている化合物Tschimganine(TMN)に注目した。TMNは分裂酵母の寿命延長を引き起こすが、濃度次第でその生育を阻害する。この特性を利用してスクリーニングを行い、TMNに耐性を示す変異株を取得した。この変異株の原因遺伝子は、分裂酵母の寿命制御にも関わるストレス応答MAP kinase(MAPK)経路中の因子であるSty1を含む、様々なタンパク質の核外排出に働くエクスポーチンタンパク質をコードするcrm1であった。これら因子とTMNの関係を解析した結果、TMNによる寿命延長はSty1に大きく関わることが分かった。さらに、TMN処理によってSty1が核に移行すること、Sty1下流のストレス応答遺伝子発現量が上昇することが確認され、TMN処理によってSty1経路が活性化されていることを見出した。以上より、TMNはSty1経路を活性化することで寿命延長を引き起こしていると考察した。 また、TMNより優れた類縁体の探索を目的としたスクリーニングを行った。その結果、分裂酵母への生育を阻害することなく寿命を延長する2つのTMN類縁体を発見し、それぞれα-hibitakanine、β-hibitakanineと命名した。これらの類縁体もCRと独立に寿命を延長すること、寿命延長効果がSty1経路に依存することが示されたことから、出発化合物であるTMNと同じ寿命延長経路に作用していることが考えられた。さらに、α-hibitakanineは分裂酵母だけでなく出芽酵母の寿命延長も引き起こしたことから、TMN類縁体が作用する寿命延長経路は幅広い生物種で保存されている可能性が示された。
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