研究課題/領域番号 |
17K19228
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
人見 清隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (00202276)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 表皮細胞 / タンパク質架橋化 |
研究実績の概要 |
ヒト表皮組織を模倣できる細胞培養系は特異な培養条件でのみ達成される。その過程として、未分化な表皮(基底)細胞を高いカルシウム濃度で培養すると同時に、「空気暴露」という刺激が必須となる。この時、下部からの浸潤はあるものの、細胞にとってはストレスのかかる状態であるが、そのメカニズムは不明である。本研究課題ではこのメカニズムの解明と同時に、これを解消できる表皮分化促進を行える因子を探索して、この特異な培養系での分化刺激メカニズムを解明しようとするものである。 昨年度までに空気暴露後と浸潤状態の細胞での、形態学的な変化を詳細に確認した。経時的により詳しく形態比較を行ったうえで、昨年度は空気暴露の有無で遺伝子発現パターンの違いがあるかどうかについて検討した。方法としてはRNA―Seq解析によっての転写産物比較(トランスクリプトーム解析)を行った。空気暴露後、形態に差異の現れ始める開始2日後の時点での空気暴露のもの、液相のままのもの、未分化状態の3種について転写産物の網羅的データを得て比較した。その結果、いくつかの分化マーカーを始めとして、従来の表皮分化では考えていなかった転写因子、酵素群が検出された。またタンパク質レベルの差異を二次元電気泳動で比較することも検討して比較追跡が可能であることを示せた(国際会議にて8月に発表予定)。 一方、もう一つの課題である、羊水からの有効な分化促進成分についても検討した。マウスは21日間の胎生日数で出生するが、この期間で羊水が採取できる11日目から18日の間で、経日的に羊水および胎児の皮膚表皮を採取した。羊水成分を質量分析にて解析し、数日の違いで含有されるタンパク質成分が大きく異なることを見出した。羊水成分についても、表皮細胞に添加して培養したところ、形態に変化はないものの表皮分化マーカー遺伝子に分化を促す変動がみられる結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までに空気暴露後と浸潤状態の細胞での、形態学的な変化を認めて、浸潤状態では角化の特徴である脱核が起こらず、また細胞の増殖度合いも著しく低いことが示された。このように経時的により詳しく形態比較を行ったうえで、空気暴露の有無(気相および液相培養)で、遺伝子発現パターンの違いがあるかどうかについて検討した。空気暴露開始2日後と液相のままのもの、未分化状態の3種について、RNA―Seq(次世代シークエンサーによるcDNA群のデータ解析)によって、転写産物比較(トランスクリプトーム解析)を行った。その結果、いくつかの分化マーカー(ケラチン)に明確な差が見られた。有意にいくつかの分化マーカーを始めとして、転写因子、酵素、サイトカインなどが同定された。昨年度のRNA-seq探索は一点(空気暴露後の2日)であったが、得たいくつかの遺伝子についてRNAの変動を解析した結果、この傾向はそれ以降も続いた。また今後、RNAレベルの解析に加えて、タンパク質レベルで網羅的に解析するにあたり、細胞抽出液から効率的に調製することを条件検討して、二次元電気泳動を行った。その結果、いくつかの変化のあるタンパク質スポットを確認した。 さらに、羊水中の有用因子の探索も見据えて、胎児の表皮形成度合いと、羊水含有成分の質量分析による経日的な変動解析を行った。並行して、表皮の形成が盛んになる時点を形態学的に評価するとともに、分化マーカーの発現度を解析した。また、羊水そのものの、表皮培養系への表皮分化への促進能の有無を調べた。ただしこの場合には、表皮分化が本来は不十分になる、空気暴露を行わない培養系に添加してその能力を評価した。その結果、形態学的に変化に至らなかったが、細胞を抽出して解析したところ、明確に分マーカーの発現が上昇し、羊水中に表皮の分化促進を行う成分がある可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
表皮細胞形成において、空気暴露と液相培養での発現遺伝子群にいくつかの重要な変化があることを見出した。すなわち液相のみ、空気暴露のみで、それぞれ特異的に発現する遺伝子を見出した。今後はこの中で得られた遺伝子の幾つかが、支配的な作用をするのかどうか、発現を経時的に観察するとともに、それがどのような生化学的役割を持つのか、明らかにしたい。またタンパク質抽出液を解析してその差異を明らかにできることがわかり、課題として感度上昇のために、今後は、タンパク質を2種類以上の蛍光標識を施して画像解析を行うことで、差のあるタンパク質を追跡したい。その後は質量分析も活用して、発現されている分子群の違いを詳細に検討する。 羊水中に分化刺激を与える成分が含まれることが判明したので、すでに行っている精製をさらに進展させる。培養細胞系に添加して、細胞内に発現するマーカータンパク質の発現量をもって分化促進能を評価している。しかしながら、培養系での評価に時間がかかりすぎることが今後の解決すべき課題である。これをより鋭敏に早く判定できるよう、遺伝子レベルでの少量の細胞で行えるようなシステムを構築する。本年度はさらに大量にマウス羊水を取得し、いくつかの精製段階を経た後で数種類のタンパク質に絞れれば、質量分析を行って特定する。 本年度は最終年度であり、学会発表や論文作成を行い、これまでの結果への批評を仰ぐとともにより継続的に行えるよう、精製と分化促進メカニズムの解析戦略を考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画遂行にあたり、予測できない消耗品の経費が掛かることが予測されたため、繰越手続きを行った。しかしながら、全てを使わずとも十分に当該年度の実施が可能であったため余剰が生じた。これは平成31年度の初期に使用予定である。
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