ヒト表皮細胞を立体培養することで正常な表皮組織と同様な細胞分化を再現することができる。しかしこの際には特異な細胞培養条件が必要であり、未分化な細胞をカルシウム含有の培養にスイッチすると同時に、「空気暴露」という刺激が必須となる。実際には二重容器で下部から培地浸潤をさせるが、通常の細胞培養ではあり得ない状況になる。この空気暴露刺激が培養表皮細胞の分化に必須であることは長年にわたり知られているが、そのメカニズムは全く不明である。本課題ではこの特異な培養系でのメカニズムの解明に挑むと同時に、空気に触れない状況でも表皮形成がなされる羊水に着目して、この矛盾を解消する因子と環境を解析し、分化刺激メカニズムを解明しようとするものである。 まず空気暴露後と浸潤状態の細胞での遺伝子発現パターンの違いをRNA―Seqトランスクリプトーム解析で検討した。その結果、いくつかの差異のある遺伝子群を見出した。その中には既存の分化マーカーに加えて、従来の表皮分化では考えていなかった転写因子群、酵素群が検出され、これらのいくつかが空気暴露を伴う立体培養時の細胞分化に伴って発現変動することを明らかにした。またタンパク質レベルでも、得られた分子群の差異が再現していることを確認した。現在これらの因子の量を人為的に変動させた時に、空気暴露と同様な分化が生じるかの検討をしている。 一方で、羊水からの有効な分化促進成分についても検討し精製を進めた。マウスの胎生日数に伴う羊水成分の含有タンパク質がどのように変動するかを、表皮の形成度合いと共に解析した。質量分析による網羅的解析から日数の違いに応じた変動結果を統計学的に解析してパターンを明らかにした。表皮細胞に添加した際の分化誘導能を指標にして、マウス羊水から精製を進めた。完全同定を目指して、給原として有用なトリ(卵)およびヤギの羊水も対象に精製と活性検出を検討した。
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