研究課題/領域番号 |
17K19235
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福崎 英一郎 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40273594)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | D-アミノ酸 / 光学分割 / メタボローム / メタボロミクス / 食品 / 二次機能 / フレーバー / 官能試験 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,まず,平成29年度の研究実績を踏まえて,さらにD,Lアミノ酸キラルプロファイリング法の性能向上を志向したメソッド開発を実施した.昨年度同様にクラウンエーテルに光学活性BINAP化合物が連結したキラルセレクターを固定相として有する工学分割カラムを用いてHILIC系(アセトニトリル/トリフルオロ酢酸/エタノール)の均一溶媒系によるクロマトグラフィーにタンデム四重極質量分析系を連結したシステムを基本とした.今年度は,(+)型カラムと(-)型カラムの2本のカラムを用いることにより共溶出するアミノ酸類についても擬陽性の危険を排除することに成功した.開発した分析システムを用いて,平成29年度に予備検討を行った種々のサンプルについて分析を実施した. まず清酒については,長期貯蔵の貴醸酒を中心として種々の清酒サンプルについて分析を実施した.サンプルをメタノール-クロロフォルム抽出系により徐タンパク,脱脂し,D-Alanine(d4)を内部標準物質としたサンプルの分析を実施した.LC-MS分析に加えてGC-MS分析も実施した.異なるサンプル間の差異は種々の代謝物プロファイルで説明することに成功したが,熟成期間の差異は完全にとらえることはできなかった.一方,官能特性を説明変数とした回帰分析を実施したところ,種々のD-アミノ酸の関与が示唆されたが,食品添加物グレードのD-アミノ酸が無いため,容量依存性を確認するには至っていない.味噌ならびに,醤油サンプルについても同様に分析を実施した.アミノ酸プロファイルを説明変数として種々の味噌サンプルの違いを表現することが可能であることを見出した.続いて,インドネシアの代表的な大豆醗酵食品であるテンペについても同様の分析を実施し,種々のテンペの再をアミノ酸プロファイルを説明変数としてあらわすことに成功した
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)解析対象とする食品サンプルは研究協力者の協力を得て収集した.清酒サンプルは,株式会社一ノ蔵酒造の全面的な協力を得て貴醸酒,長期醸造酒を中心として収集した.さらに,サンプルの定量的分析型官能試験も一ノ蔵酒造の協力を得て実施した.味噌サンプルについては,農研機構食品総合研究部門ならびに,味噌研究組合の協力を得て収集した.インドネシアの醗酵食品テンペについては,インドネシア共和国バンドン工科大学の全面的協力を得てインドネシア各地からサンプルを収集し,輸入したものを本研究に用いた.加えて,大阪大学において大豆からテンペを作成し種々の発酵過程の差異の検討サンプルの調製に挑戦した. 2)福崎らが開発した分析方法を基盤として,クラウンエーテル光学活性BINAPキラルセレクターカラムをHILIC系クロマト分離し,飛行時間型質量分析により観測することにより,D,Lアミノ酸をハイスループットで定性定量解析する分析法を最適化した.さらに,今年度は,飛行時間型質量分析に加えてタンデム四重極型質量分析を実施し,実際の食品サンプルを用いてメソッドバリデーションを行い,良好な回収率と広いダイナミックレンジと定量性を有する分析系を開発した. 3)収集した食品サンプル(醤油,味噌,清酒,テンペ)についてD,Lアミノ酸分析ならびに,福崎らが確立したGC-MSを用いた親水性低分子代謝物を対象としたメタボローム解析にもとづくメタボリックプロファイリングを実施し,種々のサンプル差異をメタボローム情報を説明変数として表現できることを証明した. 4)D-アミノ酸プロファイルと食品二次機能(官能性能)との相関の有無を検討するために,共同研究者の協力を得て分析型定量官能試験を清酒について実施した.いくつかの官能特性についてQDA法により定量化した.いくつかのフレーバーに対してD-アミノ酸およびL-アミノ酸の関与が示唆された.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度までに予定していた研究はほぼ完了した.種々の食品および発酵食品を分析対象として前処理,分析条件等を最適化し,メソッドバリデーションを完了した.今後,同様の食品サンプルの分析プラットフォームを構築するための基盤技術は確立した.一方,予想したとおり,アミノ酸プロファイルを説明変数として種々の食品や発酵食品の微細の差異を表現することが可能であることが示唆されたが,アミノ酸プロファイルと食品機能の関連はブラックボックスを多く含み,メカニズム解明には及ばない.また,N数が膨大なサンプル分析は現状では困難である.今後,本研究をさらに推進するため最も重要なことは,十分なダイナミックレンジと感度と精度で分析型定量官能を実施できる熟練官能試験者を複数人(少なくとも統計学的考察ができる下限人数(5人以上))養成することが急務となる.また,得られた予備検討結果に基づきD-アミノ酸の機能を特定するためには,D-アミノ酸添加サンプルの官能試験に基づく容量依存性確認が必要である.そのためには,食品添加物グレードのD-アミノ酸(最低でもD,L-アミノ酸混合物)の調達が必須となる.これらの項目は本研究代表者(福崎)一人の力では到底達成できない.関連各位ならびに,関連各研究部門の協力を強く願う次第である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度にインドネシアの伝統的醗酵食品を材料として研究を進捗させた.共同研究先のインドネシア共和国バンドン工科大学の好意で来年度もさらに研究を発展させることを合意している.当該研究を継続するために,インドネシアへの出張旅費をはじめとして試薬等の購入が必要となる.上記の理由により2019年度に研究費を残した次第である.お認め願いたい.
|