本研究では、遺伝子編集技術を用いて卵黄タンパク質を有用タンパク質と入れ替え、卵内に有用タンパク質を蓄積させるシステムの開発を目的とした。対象生物としては飼育と繁殖が迅速かつ簡便に行えるミジンコを用いた。ミジンコは微小なものの高密度で飼育できることから、卵黄タンパク質を有用タンパク質と置き換えることができれば容易に大量の目的タンパク質を得られる。エサは炭酸固定としても注目されている緑藻を用いることから、「炭酸固定をしながら水から有用タンパク質を作る」ことが可能になり、持続可能なタンパク質生産を目指すことができる。 (1) 卵細胞以外で産生させるタンパク質を卵細胞へ輸送するために、まず細胞外へタンパク質を分泌するのに必要な分泌シグナルペプチドと GFP を融合させた「分泌型 GFP 融合遺伝子」を挿入したプラスミドを作製した。 (2) この作製したプラスミド DNA を一過的に卵に導入し、融合遺伝子産物の局在を蛍光顕微鏡で観察し、細胞外にGFPタンパク質が分泌されていることを確認した。並行してマイクロキャピラリーを用いてヘモリンフを採取し、蛍光の測定およびウエスタン法などで、実際にヘモリンフ中に分泌される融合タンパク質を確認した。 (3)この「分泌型 GFP 融合遺伝子」にさらにビテロジェニン受容体と相互作用するドメインを融合させ、 卵細胞内に取り込まれるようにデザインした「ビテロジェニン受容体結合 GFP 遺伝子」を作製した。 (4) 作製した「ビテロジェニン受容体結合 GFP 融合遺伝子」をミジンコ卵に顕微注入し、融合遺伝子を発現させた。この融合遺伝子を注入後、約1週間培養をつづけ、育房に産み付けられた卵を回収したところ、蛍光顕微鏡観察によってマーカーとしているGFPタンパク質の卵への蓄積を確認した。現在、この遺伝子を組み込んだ系統の樹立を進めている。
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