研究課題
イノシトール(inositol)には9種類の異性体があり、幾つかの異性体は社会問題ともなっている難治性疾病の治癒および予防に有効である。しかし、何れも希少かつ高価に過ぎるため既知の有効性のみならず安全性の検証も遅れており、ましてや新たな効能の探索も難しい現状にある。従って、希少イノシトール異性体の効率的生産手段の開発が待ち望まれている。申請者は微生物のイノシトール代謝を利用して、アルツハイマー病に効力があるscyllo-inositol(SI)や糖尿病に有効なD-chiro-inositol(DCI)という2種の異性体の生産に成功した実績がある。一方、もう一つの異性体epi-inositol(EI)は鬱病に適応がみられると報告があるが、その有効な生産方法は未だ確立されていない。本研究は申請者が培った従来の研究を発展させて、複数のイノシトール脱水素酵素を組み合わせる細胞内コンビナトリアル・エンザイモロジーを実施し、様々な希少イノシトールを生産する新たな手法開発の可能性を探る挑戦である。H29年度は、まず細胞内コンビナトリアル・エンザイモロジーを行う基本細胞、すなわち“シャーシ菌株”を作成した。続いてコンビナトリアル・エンザイモロジー実施の準備としてシャーシ株へ6種のイノシトール脱水素酵素遺伝子ひとつずつの導入を行った。さらに、第 1期コンビナトリアル・エンザイモロジーの実施として、2 種類の異なるイノシトール脱水素酵素を発現する組み合わせ 15 通りのコンビナトリアル株を揃えた。作成された 15 種類のコンビナトリアル株について、それぞれ MI を 1%程度含むイノシトール異性体変換用ソイトン培地にて培養し、培地中に放出蓄積される イノシトール異性体を分離同定した。結果的に幾つかの組み合わせにおいてMIからSIへの変換が認められたが、他の異性体の検出には至らなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画の通り、細胞内コンビナトリアル・エンザイモロジーを行う基本細胞、すなわち“シャーシ菌株”を作成し、6種のイノシトール脱水素酵素遺伝子ひとつずつの導入を行い、さら、第 1期コンビナトリアル・エンザイモロジーの実施として、2 種類の異なるイノシトール脱水素酵素を発現する組み合わせ 15 通りのコンビナトリアル株を揃えたという経過はおおむね順調な進展として評価できる。しかし、SI以外の異性体の生成を見出すことはできず、他の異性体の生成を図るには、今後の培養条件検討等が必要であることも示唆された。
研究計画は当初の予定通りに進捗しているが、未だSI以外の異性体が現れないことは様々な希少イノシトールを生産するという目的がまだ達成できないていないことを意味する。H30年度は予定通りにiolI 遺伝子の追加導入を実施し、さらに 15 株の新たなコンビナトリアル株を追加作成するが、それでも新たな異性体が作成できない可能性を踏まえて計画を拡張する必要性を感じ始めた。そこで、従来の6種に加えてさらに組み合わせに追加する新たなイノシトール脱水素酵素を考慮する計画の修正を考え始めている。折よくタイのスラナリ工科大学に共同研究者を得たので、H30年度はこの研究者が所有する豊富な微生物資源より当該酵素遺伝子の候補を見出す国際共同研究への展開を含めて検討を進めている。
当初予定していた人件費や謝金についての対象が無かったこと、またHPLCカラムが予定以上に耐久性があり交換の必要がなかったこと、さらに予定していた消耗品、特に希少イノシトール異性体の標準物質の調達が儘ならず現有のもので間に合わせざるを得なかったことが次年度使用額が生じた理由である。次年度にはこれらの購入をまとめて実施する必要があり、そのために次年度にこの予算をあてる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Genome Announc
巻: 5 ページ: -
10.1128/genomeA.01312-17