研究代表者は、微弱電流処理による動物細胞への薬物送達に関する実績に基づき、「微弱電流処理による植物細胞の生理機能変化を利用すれば、siRNAおよびプラスミドDNA等の核酸を非侵襲的かつ効率的に細胞質へ送達可能であり、ウイルスなどを用いずとも形質を制御できるのではないか」、という仮説を立てた。従って、本研究の目的は、本仮説を検証し、微弱電流処理による植物の成長と形質の制御システムを開発することである。すなわち、「水耕栽培系においてsiRNAやプラスミドDNA等を水溶液中に共存させることで植物の形質を転換することができるか検証すること」を本研究の目的としている。具体的には、シロイヌナズナ水耕栽培システム(Araponics system)を用いシロイヌナズナをある程度まで成長させた後、蛍光標識化オリゴDNAを含有する溶液中で、ヒト心電図検査用電極シートを用いて微弱電流処理を行い、根茎部切片を共焦点レーザー顕微鏡により観察することで、根茎細胞内への蛍光標識オリゴDNAの評価に挑戦した。平成29年度は、シロイヌナズナ自身の自家蛍光のため、蛍光標識化オリゴDNAの組織内浸透を正確に評価することができていなかったが、種々の条件を検討することで、最適化に成功した。その結果、微弱電流処理によって、動物組織と同様に、植物組織内にも蛍光標識化オリゴDNAが浸透することを世界で初めて見出した。さらに、根でも多く発現しているPHYB等の遺伝子を標的として、それらに対するsiRNA存在下でシロイヌナズナの根茎部を微弱電流処理したところ、期待に反してmRNAの有意な抑制は認められなかった。今後、細胞内に取り込まれているのか、を明らかにするとともに、機能性素子との組み合わせにより、siRNA等を細胞質まで送達できる工夫を開発したいと考えている。
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