研究課題/領域番号 |
17K19245
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山地 亮一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (00244666)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | カロテノイド / β-カロテン / β-カロテン 15,15’-モノオキシゲナーゼ / 白色脂肪 / 褐色脂肪 |
研究実績の概要 |
ビタミンA学における学術的概念では、ヒトを含む哺乳生物がビタミンA前駆体のβ-カロテンからビタミンAを生産するために、β-カロテンをレチナールに変換するβ-carotene 15,15’-monooxygenaes(BCMO1)を利用しており、BCMO1の役割はビタミンAを補給するためのカロテノイド代謝酵素としての位置付けにある。しかしビタミンAを十分量含む標準食を摂取したBCMO1ノックアウト(KO)マウスは野生型(WT)マウスに比べて、オスでのみ白色脂肪組織(内臓脂肪量と皮下脂肪量が増加)と褐色脂肪組織(脂肪量が増加傾向、p=0.07)で異なる表現型が観察された。そこでBCMO1の真の役割を明らかにするためにWTと BCMO1 KOのオスマウスの白色脂肪組織と褐色脂肪組織の性質の違いに関する情報を収集した。鼠径部皮下脂肪ではWTとKOのマウス間で形態的な違いはなかったが、甲骨間褐色脂肪ではWTよりもKOのマウスで小さい脂肪滴の数が増加し、平均の脂肪滴面積も減少していた。しかし高脂肪食を摂取させたWTとKOのマウスの内臓脂肪量を評価したところ、両者における差が認められなかった。白色脂肪細胞の前駆細胞の増殖と分化におけるBCMO1の役割を検討するため、初代前駆細胞を単離する方法を確立し、現在WTとKO間で違いがあるかを検討中である。褐色脂肪細胞については熱産生に関与する因子を比較したところ、β3-アドレナリン受容体の発現が減少傾向を示した。脂肪酸の細胞内への取り込みに関与する因子では、KOマウスにおいてCD36の発現が減少し、CD36の発現を制御するPPARγの発現および遊離脂肪酸を生成するLPLの発現が減少傾向を示した。脂肪滴の形成および融合に関与する因子の発現レベルは、KOマウスで脂肪滴の形成および融合に関与するPlin1およびFSP27αの発現が有意に減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
動物飼育施設の空調の故障のため、組換えマウスの繁殖実験を当初の予定通り行えなかったため、実験に必要なマウスの匹数を確保できなかったため、野生型(WT)とBCMO1ノックアウト(KO)のマウス由来の初代脂肪前駆細胞を用いた比較実験を十分に行えず、やや遅れているが、現在本実験に必要なマウスの匹数を確保するための繁殖実験を繰り返している。一方で、BCMOのKOが褐色脂肪細胞におよぼす影響に関しては脂肪滴の形成および融合に関与する因子の発現レベルに関する違いを見出し、予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪細胞は前駆脂肪細胞が増殖した後、脂肪細胞に分化し、成熟・肥大化することにより脂肪滴を蓄えた成熟脂肪細胞となる。BCMO1 KOマウスの白色脂肪組織と褐色脂肪組織における特徴の違いをさらに評価するため、白色脂肪ではWTマウスとKOマウスから単離した初代白色前駆脂肪細胞を利用して増殖や分化におけるBCMO1 KOの影響を評価する。褐色脂肪では脂肪滴形成に関与するシグナル伝達経路(PI3K、ERK1/2、p38MAPKなど)を解析する。さらにWTとKO由来の初代白色前駆脂肪細胞あるいはマウスの白色脂肪組織の遺伝子発現をRNA-Seqにより網羅的に比較解析する。BCMO1のKOで分化が促進したら、脂肪蓄積の分子機構を解明するとともに、BCMO1の内在性の基質を探索する。探索する候補としては、WTとKO由来の脂肪細胞内の脂溶性物質に絞り、GC-MSを用いて解析する。また血中由来の因子の影響も評価するため、WTとKOマウスの血清中における化合物も検討する。候補物質に関してはBCMO1の基質となるかを組み換えBCMO1タンパク質を作製して評価する。褐色脂肪は白色脂肪と異なり、熱産生に関わる組織であるので、BCMO1 KOマウスとWTマウスを低温環境下で飼育し、熱産生能の違い(温度調節)を評価する。さらにBCMO1 KOによる脂肪組織での表現型の変化がオスでのみ観察されたため、BCMO1 KOによる脂肪組織での表現型に性差が関与するのかを性差の主要な調節因子である性ホルモンの関与を中心に評価する。具体的には、WTとBCMO1 KOマウスのオスにおける性ホルモン量を測定し、さらに男性ホルモンの関与を検討するため、精巣摘出したオスマウスにおける白色脂肪組織と褐色脂肪組織におけるBCMO1の役割を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験で使用するノックアウトマウスを飼育する施設の空調が故障したため、その期間に繁殖実験をすることができず、実験に必要な匹数を確保できなかったため、マウスの飼育に関わる費用が翌年に持ち越された。現在は施設の空調が復旧しており、平成30年度の実験に必要とされる匹数を確保するために繁殖実験は既に進行中である。
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