研究実績の概要 |
ヒトを含む哺乳生物はβ-カロテン15,15’-モノオキシゲナーゼ(BCMO1)を利用してβ-カロテンをレチナールに変換しており、BCMO1はビタミンA補給のためのカロテノイド代謝酵素としての位置付けにある。しかしビタミンAを十分量含む標準食を摂取したBCMO1ノックアウト(KO)マウスは野生型(WT)マウスに比べて、オスでのみ褐色脂肪組織量は増加傾向を示し、白色脂肪組織量が増加した。BCMO1の真の役割を明らかにするためにWTとKOのオスマウスの褐色脂肪組織と白色脂肪組織の特徴を検討した。甲骨間褐色脂肪ではWTよりもKOのマウスで細胞中の脂肪滴サイズが縮小したが、鼠径部皮下脂肪ではWTとKOのマウス間で形態的な違いはなかった。KOによって褐色脂肪組織において細胞内への脂質の取り込みに関与するCd36レベルは増加し、遊離脂肪酸を生成するLplレベルおよび脂肪滴の融合に関与するFsp27α、Fsp27β、CideaやPlin1のレベルは減少傾向を示した。CD36の発現を制御するPPARγの発現も減少傾向を示した。褐色脂肪細胞への分化に関与する因子であるPrdm16の発現レベルがKOマウスで有意に減少した。寒冷暴露マウスではKOで直腸温度が低下し、寒冷耐性が低下傾向を示した。寒冷暴露後の褐色脂肪組織においてPrdm16および熱産生のスイッチであるβ3-アドレナリン受容体の発現がKOにより減少した。寒冷暴露マウスの鼠径部皮下脂肪においてUcp1とPrdm16の発現量が増加したが、KOではそれらの増加がみられなかった。さらにマウスの鼠径部皮下脂肪から単離培養した前駆脂肪細胞ではKOマウス由来の脂肪細胞において分化初期のPparγ, C/ebpαおよびC/ebpβの発現が有意に増加した。以上から、BMO1は脂肪組織においてカロテノイド代謝以外の機能を有することが示唆された。
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