研究課題/領域番号 |
17K19254
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀 雅敏 東北大学, 農学研究科, 准教授 (70372307)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 昆虫 / 青色光 / 殺虫 / 青色LED / ショウジョウバエ / 作用部位 / 害虫防除 / 光受容 |
研究実績の概要 |
成虫における作用部位の解明では、視覚系突然変異系統や体色の異なる突然変異系統間で青色光の殺虫効果を比較し、作用部位を推測するための知見を得る計画である。本年度はsepia(複眼がセピア色)、white(複眼が白色)、Bar(複眼が棒状)、eye missing(複眼が欠失または点状)、norpA(複眼活動電位が消失)の視覚系突然変異系統5系統とクリプトクロム機能消失変異体のCryおよび体色が黒色のebonyの7系統を入手、比較として用いる野生型のCanton-Sと合わせて8系統の累代飼育を確立した。成虫に対して470あるいは435 nmの青色光を照射し、系統間で殺虫効果を比較しているが、いずれの系統でも両波長による殺虫効果は雄のほうが高いことが明らかになった。またこれまでのところ、470 nmでは、殺虫効果の高い順に、white>sepia>ebonyとなり、435 nmでは、white>norp>sepia>ebonyという結果を得た。ebonyの次に高い青色光耐性がみられたsepiaでは、470 nmで約8割、435 nmで約7割の個体が死亡したが、ebonyではいずれの波長でも1~2割程度の個体しか死亡せず、非常に高い青色光耐性がみられた。このことから、青色光の体内への入力経路として体表が重要である可能性が高いと考えられた。 卵における作用部位の解明では、ショウジョウバエ胚由来培養細胞と卵との間で、効果的波長に類似性がみられた。したがって、卵においては、卵殻を通った青色光が細胞に直接吸収され、活性酸素が生じることで細胞が傷害を受けている可能性が高いと考えられた。 蛹における作用部位の解明では、効果的波長は前蛹段階ですでに成虫と類似してくることがわかった。したがって、蛹における作用部位は成虫と類似している可能性が高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵および蛹における作用部位の解明に関しては、申請書に記載した本年度の研究実施計画のすべてを終了することができた。成虫における作用部位の解明に関しては、申請書作成時は、体色の異なる系統を用いた解析だけを本年度の研究実施計画としていた。しかし実際には、視覚系突然変異系統のいくつかについてもすでに解析に着手し、視覚よりも体表の方が殺虫に関与する青色光の入力経路として重要である可能性をすでに見出すことができた。このことから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在入手済みの突然変異系統すべてにおいて、成虫の青色光耐性を比較する。また、視覚入力遮断を行うことにより、青色光の殺虫効果が変化するか調査する。これらの調査により、殺虫に関与する青色光の入力経路として、視覚系の光受容部が重要であるのか、体表を通しての体内への青色光の侵入が重要であるのか明らかにしていく。成虫での作用部位の解明に関しては、H30年度は本年度の調査項目を引き続き実施するとともに、物理的な視覚入力遮断の青色光殺虫への影響を調査する。 蛹における作用部位の解明に関しては、成虫と同様に、入手した突然変異系統間で青色光の殺虫効果を比較する。本年度の結果から、蛹に対する効果的波長は前蛹段階ですでに成虫と類似してくることがわかったことから、殺虫に関与する青色光の入力経路も成虫と蛹で類似しているのか明らかにする。この調査項目についてはH30年度に実施する。 幼虫における作用部位の解明については、Bolwig organ切除個体を用いた照射実験によって解析する予定であるが、これについてはH31年度に行う。また、虫体の光吸収特性と効果的波長の関係解明のために、虫体の光吸収スペクトルの解析を実施する計画であるが、これについてもH31年度に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はLED、試薬類、ガラス器具類、昆虫飼育用具類などの購入を予定していたが、次年度に必要となる物品費が当初計画よりもかなり大きくなることが予想されたことから、本年度はすでに研究室にストックしてあったものをなるべく使用することで、次年度に使用できる物品費を多くした。これにより、次年度使用額が生じた。現在、バイオマルチインキュベーターを2台保有しているが、実験の関係上2台では足りず、さらに1台購入する必要が生じたため、次年度はこの購入費の一部に助成金を使用する計画である。また、LEDパネルも数台の更新が必要となっていることから、この購入にも助成金を使用する予定である。その他は、試薬類やガラス器具類などのその他消耗品および研究発表旅費などに使用する予定である。
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