研究課題/領域番号 |
17K19257
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮下 脩平 東北大学, 農学研究科, 助教 (60556710)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | R遺伝子 / MOI |
研究実績の概要 |
植物ウイルスであるキュウリモザイクウイルス(CMV)の外被タンパク質が抵抗性遺伝子RCY1によって認識を受けると、抵抗性反応が誘導され、CMVの感染域拡大が停止する現象が観察されている。そのようにして誘導される抵抗性反応は他の種類の病原体に対しても効果があることが知られており、細胞死の誘導も伴うが、これらは植物の自然界への適応の過程で齎された、必ずしも必要でない効果であると考えられる。今年度は、CMVの感染域拡大が停止する分子機構を細胞死と切り離して考察するための準備を行った。具体的には、これまでに申請者らが確立した、細胞間移行後に新しい細胞で感染を成立させるウイルスゲノム数(感染ゲノム数 )を推定する方法を用いて、抵抗性誘導時のCMV感染ゲノム数を推定した。その結果、抵抗性誘導時に感染ゲノム数の低下が見られた。また、サリチル酸アナログであるアシベンゾラルSメチル(BTH)を植物葉に噴霧処理した場合にもBTH濃度依存的に感染ゲノム数の低下が見られたことから、抵抗性誘導時の感染ゲノム数低下にサリチル酸経路が寄与することが示唆された。感染ゲノム数の低下が感染域拡大の停止につながるには、そもそも感染ゲノム数がある程度小さい必要がある。これまでに我々は、植物ウイルスにとって(抵抗性遺伝子非存在下での)適応的な平均感染ゲノム数が4程度であることを提案しているが、そのような状況であるからこそ感染域拡大が停止しうるものと考えられる。一方でウイルスが適応しておらず、大きな平均感染ゲノム数を持つ場合、抵抗性反応によって感染域拡大が停止することはできないと考えられる。この状況は、植物とウイルスの組み合わせによって観察されることのある、全身壊死病徴を説明するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
抵抗性誘導時におけるMOIの推定のために新しく検討すべき課題があったため、その解決に時間がかかってしまった。また、数理モデリングによる解析で、現在のところ面白い結果を得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.植物の病原体抵抗性シグナル経路の最末端について、サリチル酸経路の下流で制御を受ける遺伝子を文献等で調査し、N. benthamianaにおいてこれらをノックダウンすることで抵抗性誘導時のMOI低下に影響が見られるかどうかを検討する。 2.植物集団の適応が植物個体に齎す制約について、特にR遺伝子発現量のばらつきを想定した数理モデルを作成して検討する。より具体的には、R遺伝子発現量のばらつきにより一細胞レベルでウイルスが封じ込められるER、細胞死を伴って全身的な抵抗性誘導が起こるHR、全身壊死が起こりうる状況を想定するとともに、さらにウイルスの進化や多様性を想定した数理モデルを作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
招待講演などで旅費が想定したほどかからなかったことなどにより、次年度使用額が生じた。次年度に物品費のほか、論文の取りまとめに必要な英文校閲料、投稿料に使用する予定である。
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