研究課題/領域番号 |
17K19264
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
沼田 英治 京都大学, 理学研究科, 教授 (70172749)
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研究分担者 |
神戸 崇 北海道大学, 農学研究院, 専門研究員 (40648739)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 昆虫 / 生理学 / 時間生物学 / 光周性 / 季節適応 / アブラムシ |
研究実績の概要 |
【RNA干渉による時計遺伝子の発現抑制】腹部への注射で行っていた二本鎖RNAの導入方法の見直しを行った。時計遺伝子periodおよびcycleの二本鎖RNAをショ糖溶液に混ぜて2齢幼虫に摂食させたが、子の生殖型への明瞭な影響はみられず、対象とする遺伝子の発現量にも減少は見られなかった。この方法によるRNA干渉は有効でないことがわかった。 【トランスクリプトーム解析】前年度に取得した配列情報をもとに、季節タイマーがはたらいている時と切れた後とで発現量が異なる遺伝子を探索した。その結果、ヒストンアセチル化をはじめとしたエピジェネティックな修飾にかかわる遺伝子の発現量が季節タイマーのオン・オフに伴って有意に変動していることが明らかになった。 【エピジェネティックな修飾の薬理学的抑制】DNAメチル化とヒストンアセチル化をそれぞれ阻害する5-azacitidineとtrichostatin Aをショ糖溶液に混ぜて2齢幼虫に摂食させたが、子の生殖型への明瞭な影響は見られなかった。これらの薬剤の濃度をさらに上げると子の発生異常が増加する傾向がみられたため、この方法はエピジェネティックな修飾の関与の検証には不適であることがわかった。 【季節タイマーの生態的意義の検証】前年度の結果から考えられた「季節タイマーは秋に産むべき両性生殖型を春に誤って産むことを防ぐ」という仮説を検証するための実験を京都と札幌で行った。越冬卵から孵化した季節タイマーオンのアブラムシと、実験室で単為生殖によって世代を繰り返すことで季節タイマーオフになり、短日のもとで両性生殖型を産むようになったアブラムシを、春の自然の温度と日長のもとで飼育したが、これらの虫は羽化後に両性生殖型をまったく産まなかった。上記の仮説を支持されなかったが、前年度の結果との違いの原因も含めて季節タイマーの生態的意義を再検討する必要が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RNA干渉による時計遺伝子の発現抑制については、異なる方法を試みたにかかわらず有効なものが見つからず、断念を余儀なくされた。これが遅延の一番の理由である。また、季節タイマーの生態的意義の検証について、前年度と異なる結果が札幌で得られたが、これはより妥当な結論を導くための試練と受け止めている。
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今後の研究の推進方策 |
分子機構の解析については方針変更し、RNA干渉による時計遺伝子の発現抑制を断念する。一方、季節タイマーに関連して発現変動する遺伝子を探索するトランスクリプトーム解析は一通り完了したので、得られた結果をもとにエピジェネティックな修飾が季節タイマーに関与することを確定することに注力する。そのため、季節タイマーが働いているアブラムシにヒストンアセチル化の阻害剤などを摂食させることで季節タイマーの進行が変わるかを検証するとともに、クロマチン免疫沈降法で得た産物を次世代シーケンサーで読み取るChIP-seqによってヒストンアセチル化の定量と領域推定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】RNA干渉の方法が確立できなかったために、それを本格的に実行するための物品費の使用が予定より少なくなった。 【使用計画】当初の計画よりも、エピジェネティックな変化の定量やその抑制に力を入れることになり、次世代シーケンサーを用いた解析のための費用に使用する計画である。
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