研究課題
本研究の出発点となった変異菌W1032BF株は、分生子を形成しながら生育する。これは、その他の白紋羽病菌においては観察されない現象であった。白紋羽病菌は通常、分生子を形成することなく菌糸を培地上に伸展させる。白紋羽病菌はクワ枝上で生育させ、近紫外光を照射することにより分生子を形成することが知られていることより、野生株をGFP標識した菌株を用いて近紫外光照射を行い、人為的に分生子を調製した。この分生子懸濁液をGFP非標識菌株に投与し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、W1032BF株と同様に分生子と菌糸が融合し、細胞質にあるGFPが相手側菌株へと伝搬されることを確認した。このことより、菌類ウイルス伝搬能力はW1032BF株固有の能力ではなく、分生子を介することで白紋羽病菌に広く認められる現象であることが明らかとされた。また、W1032BF株の特徴付けを進めるために、細胞内の核の局在様式についてDAPI染色/カルコフラワー染色を行うことにより単位細胞あたりの核数を調査した。その結果、従来報告されているよりも多核状態であることが明らかとされた。しかし、この結果は、野生菌株においても同様の結果であった。白紋羽病菌における核保有数についての解釈は、今後詳細に検討する必要があるが、少なくとも核数の違いが変異菌株の性質を著している訳では無い事が明らかとされた。さらに、W1032BF株の特徴づけを行うために、ゲノムDNAおよびmRNAを抽出し、次世代シーケンサー解析によって、全ゲノム情報およびRNA-seq情報を得た。次年度より野生株の情報と比較解析を行い、変異菌の特徴を反映している遺伝子の同定を試みる予定である。
2: おおむね順調に進展している
変異菌W1032BF株における特徴付けを進めることができた。核の存在様式に関しては、既報より1細胞あたり2核程度存在するものと考えられてきたが、今回の計測からは1細胞あたり4個存在している結果となった。核数の違いによって遺伝子発現が大規模に変動することも考えられたが、野生株においてもほぼ同数の結果となった。以上より、核数が変異菌の表現型に影響している訳ではないことが明らかとされた。また、変異菌のウイルス伝搬能力は特別なものであるのかどうかを検証するために、野生株についても人工的に分生子を形成させ、細胞内容物が伝搬されるかどうかを検証した。その結果、野生株由来の分生子を用いても異なる菌株の菌糸と細胞融合し、細胞内容物が移行するのを確認した。この結果は、分生子を形成する能力そのものが、菌類ウイルスの移行能力に直結していることを意味しており、今回の発見は普遍性の高い現象であることを明らかとした。変異菌の原因遺伝子を明らかとするために、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析、RNA-seq解析を行う基礎データが整った。次年度より野生株と変異株との比較解析を行い、原因遺伝子の特定を進めて行く予定である。
昨年度までに整った、野生株および変異株の全ゲノム情報およびRNA-seq情報をin silico解析を行い、表現型と関連する原因遺伝子の特定を進める。絞り込まれた候補遺伝子については、リアルタイムRT-PCR等を行うことにより、再現性の確認を行う。変異株の特徴として、培地で生育する過程においても分生子を形成する点が挙げられる。そこで、分生子形成に関わる遺伝子に着目する。糸状菌における分生子形成機構については、多様な菌種において解析が進められているが、白紋羽病菌における知見は少ない。例えば、アカパンカビ、アスペルギルス菌やいもち病菌などの分生子形成機構と比較し、どの経路までが共通していて、特異的な経路はどの菌種に近いものなのか、明らかとする。さらに、これら発現変動する遺伝子については、野生株において近紫外光照射した際に分生子が形成される条件で発現変動する遺伝子と共通しているのかどうか明らかとする。これら過程によって絞り込まれた原因遺伝子については、機能破壊実験を試み、変異菌を再現できるかどうか確認する。また、分生子が異なる菌株の菌糸と融合する場面について、顕微鏡観察を実施する。
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